第295話 数に変化はなかったか

 半年周期にしたから更に4か月後だな。第7期が召喚された。

 やはり数は20人。

 前回召喚した6期生で、現在生き残っているのは15人。

 それも3人は、帰還を望んだため俺自らが日本へと帰した。

 手ごたえはある。無事に帰っているはずだ。

 だから実際に戦闘で命を落としたのは2人だけだ。これは大きな進歩だと思う。

 研修など、以前の反省が生きたと喜んで良さそうだ。


 更に半年後――この間、1度大変動があった。

 だけど巻き込まれた死者は0。これは大きい。

 あれを一度知れば、二度と迂闊な行動はとらないだろう。

 そして第8期として召喚された数はやはり20人。

 この時点で、第3期2人に加え、第6期、第7期を合わせて生存者は26人。

 6人は日本へと帰り、4人は残念ながら戦闘で命を落とした。

 これに新たに8期生が加わった事で、召喚者の合計は46人となった。


 ただ2人はすぐさま帰ると言い出し、説得も失敗。仕方なしに、俺の責任において処理をした。

 余裕も出て来たのだし、本当は素直に帰してあげたかった。本人の意思を無視して召喚したのだから、むしろそうするべきだ。

 高校生の俺であれば、迷わず帰しただろう。

 だけどやはり、生贄となったラーセット人に申し訳が無い。俺は責任上、彼らの顔や生い立ち、生贄に志願した理由を覚えている。

 だからどうしても、素直に帰してやることが出来なかったんだ。

 これは何と言うか、意地だな。


 こうして活動している召喚者は44人。もちろん、俺も数に入っているぞ。

 最初に比べると、驚くほどに順調だ。

 この頃になると、召喚者同士が互いを補い合うだけの余裕でも出てくる。

 やはり同期でチームが組まれていることが多いが、同じ学校や会社の人が全て仲良しというわけではない。

 喧嘩別れもあるが、不足したスキルを補い合うために移籍する様子も見られるようになった。

 実にいい傾向だ。これでより長く生きられるようになる。


 そして迷宮ダンジョンの版図も急速に拡大した。使えるセーフゾーンは500を超え、最近では半年以上潜ったままになっている奴もいる。

 より深く、より奥へ。ラーセットに収められるアイテムの数も質も、かつてとは比較にならない。

 生活は便利になり、薬のおかげで首都であるロンダピアザの外で生活する人々や兵士たちの死傷者数も劇的に減ったそうだ。

 そのおかげで、通常の兵士たちはロンダピアザからかなり離れた行動が出来るようになってきた。


 名目上は迷宮ダンジョンの出口が出来てしまっていないかの見回りなどだが、俺的な目的は当然ながら奴の本体探しだ。

 迷宮ダンジョンの何処かに潜んでいるか、それとも外で生活しているのか。

 というか正体すら分からない。

 また黒竜に聞きに行きたいところだが、あまり機嫌を損ねても困る。それなりに間を空けた方が良いだろうな。

 出来れば本体の野郎には地下で大変動に巻き込まれて死んでほしい所だが、そんなに甘くは無いから百年後にイェルクリオに現れたわけで……。


 まあそうやって発展してきたせいか、召喚者とラーセット人との仲は非常に良好だ。

 ロンダピアザにある召喚者の宿舎周辺には召喚者街が出来、誰が教えたのか怪しい日本語が書かれた店が立ち並ぶ。

 基本はやはり食堂や居酒屋だが、日本的なファッションやアクセサリーなんかの店もある。

 ただ素材が日本とは根本的に違うので、色々と怪しい。特に料理が。

 こちらは調味料を作るための原材料探しから始めないといけないので、なかなか大変だ。

 だけど食は生きる原動力だからな。俺達も創意工夫はしてきたが、基本的に塩頼みしかなかった。

 ここが改善される事で、彼らの不満はさらに減るだろう。

 全てが順調で怖い位だ。


 こうしている内に再び半年が経過し、9期生が召喚される事になった。

 この時点での生存者は39人。

 死者は0だが、5人は帰還した。彼らは十分すぎるほどに働いてくれたし、何人かはまだこの世界に未練がある様だった。

 だがチームとしての総意として帰還を選んだのだから、俺もそれを尊重した。

 願わくば、俺が失敗した時に、彼らが世界を救ってくれますようにと願いを込めて。


 さてここで問題だ。

 あえて、限界の事はミーネルには話さなかった。

 50人という上限が変わっていなかったら、生贄の半分ほどが無駄死にとなる。

 以前、即帰ると言い出した2人を始末した件と矛盾していることは分かっている。やりたくはない。もっと少ない数で試すべきだとも思う。

 だけど中途半端な数にした結果だと、別の要因の可能性を捨てきれなくなってしまう。

 だからこれ一回。それで確定させる。


 そして――召喚された数は11人であった。

 召喚の間に動揺が走る。ミーネルも何か失敗したのではないかと、周りをキョロキョロしている。多分俺を探しているな。

 とにかくこのままだと、召喚された11人が不安がってしまう。

 仕方がない――、


「大丈夫だ、ミーネル。儀式に失敗は無い。今はいつも通りに続けてくれ」


 俺は彼女にしか聞こえないように声を掛けた。

 説明している余裕は無かったが、彼女はそれで落ち着いたようだ。いつも通り、召喚者に対する説明が始まった。

 後は既に実質トップといわれるようになった風見絵里奈かざみえりな児玉里莉こだまさとりに任せるとしよう。


 いや、俺が何かやらかした訳じゃないよ。

 ちゃんと予定通り。俺の存在は知られているが、あくまでとても偉い人。普段は皆の前に出るような立場じゃない事になっているだけだよ。

 本当だよ。

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