第283話 あの悲劇を止めるために俺はここにいるんだ
帰った人間がどうなったか。この答えを間違えちゃいけない。
嘘をつくときは真実を混ぜた方が良いというが、ここはもう完全嘘だ。
「俺が知る限り、誰も死んではいなかったよ。だけどさっき言ったように、ラーセットでの記憶は全て失われていた。だから向こうの生活で関わらなかった人たちはどうなったかは分からない」
「そうですが……少し安心しました」
「それで、クロノス様はなんでまた戻って来たんですか? それにさっきの話だと、時間がおかしい様な感じだがしたのですけど」
「その感じは間違っていないよ。俺は一度日本に戻ったが、今度は過去に戻されたんだ」
「どういうことです?」
「言葉通りの意味だよ。この世界で召喚が始まって百年以上か。その時代に俺は召喚された。その時に聞いたんだ。かつて伝説級の強力な
「そうやってクロノス様が退治したんですよね?」
「正確には追い返しただけなんだよね。実際にはまだ生きているんだ。それにしても、無茶苦茶驚きもしたし混乱もしたよ。まさかそいつを撃退した召喚者ってのが自分自身だったなんてな」
「それはまた……何といったらいいのか」
「こちらの世界で何年過ごしても、向こうの世界では時間は止まっている。そう考えれば、時間のずれが起きてもおかしくはないのかもしれない。ただ向こうで10年ほど過ごしたところで大きな事件が起きた。とても大きな事件で、全く考えもつかなかった事だ」
「それは?」
「その
絶句していた。どう返事をしたら分からないといった感じだった。
冗談だと言ってしまえれば、彼女たちも楽だっただろう。
だけど淡々と話す俺に、口を挟む事は出来なかった。
「その時の俺にはラーセットでの記憶は無かったからな。信じられない状況だったよ。見た事の無い
「当然、人類は抵抗したんですよね?」
「当たり前だな。人類は勝って勝って、勝ち続けて地球の覇者となった。当然、新たに現れたモンスター共とも戦ったさ。未知の敵ではあったが、現代兵器の前では勝てない相手ではなかった。というか、勝つだけならそんなには難しくは無かったよ」
「なら日本でも撃退できたんですね?」
「いや……そうはならなかった。奴らはどんどん増えた。天敵や抑制するような要素が無かったんだろう。人が、家畜が、野生動物が、次々と奴らになった。その増え方から俺達は“感染”と呼んでいたが、実際にウイルスのような物は発見できなかった。あ、俺は研究員をしていてね、奴らの検体は山ほど解剖したよ」
「……」
「いつ、誰が、何処で奴らになるか分からない。倒しても、倒しても、地球に動物がいる限りキリが無い。町行く人が、突然脱皮するように変わる。朝を迎えると、一家が全滅していた。たった一体、変わり果てた家族――或いはペットを残して。戦うべき兵士たちも次々と変わり果てた。社会が崩壊するのは一瞬だったよ」
「……それで、どうなったんですか?」
「俺が最後に居た場所は山奥にある研究所だった。次々と奴らの死体が運び込まれ、休む間もなく研究に明け暮れていた。施設は自家発電。食料は備蓄品。周囲を自衛隊が守っていたが、もう守るとかいう状況では無いな。本人が変わり果てない限り、変わり果てた奴を倒すだけ。俺もいつ奴らになるか分からなかった」
「怖くは無かったんですか?」
「何も……。別に強がりとかそういうのじゃないんだ。もうテレビは映らない。ラジオも聞こえない。仮に感染を防ぐ手段を見つけたとしても、既に人類は奴らに対処できる数ではなくなっていた。一発の逆転があるとしたら奴らの全てを即死させるような広域散布系の薬の発見だろうが、どちらにしても、大元が生きている限りどうしようもない。それでも何ていうのかな――使命感というか意地というか、とにかく研究をやり遂げる事だけが全てだったんだ」
そう……それがきっと、
実際には見当違いだったわけだが。
「大元ですか?」
「さっきも言ったように、増えるんだよ」
「いえ、それは聞きました。だけどその――感染と聞いたのでゾンビの様に増えるのかと」
あー、その可能性は全く考えていなかったわ。
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