第280話 よし増やそう
「さあ、力を抜いて」
「は、はい……」
目を閉じ、体から力を抜く。
まだ性も知らない硬い蕾……なんて言うと危なすぎる響きだが、実際彼女の方がてこずると思っていた。こうして大人の男に抱きしめられる経験なんてないだろうしね。
だけど、知らず知らずのうちに、俺には女性を安心させるテクニックが備わっていたらしい。これもみんなのおかげだろう。
話し方、触り方……そういった要素で次第に心をほぐしていく。
それにそもそも、
最初は震えていたが、案外あっさりと心を開いてくれた。
同時に体が光り、ゆっくりと消えていく。
「ありがとうございます。もし覚えていたら、本当に本を書きますね」
それはとても遠く小さな声だったが、確かに俺の心に届いたよ。
でも忘れてね。
後に残されたのは、彼女が選んだ片手剣。
だけどこれで、不確定であるが帰す事は出来た。
ではこれで万歳! 問題は解決だとなるかと言うと、実は全くなっていない。
仮にの話だ。これから召喚者に説明して、帰りたい人間は帰ってくれて良いとしよう。
当然、最初の段階で多くの人間が帰る。残る人間は、とりあえずスキルを試してみようという人間か、帰すという言葉自体を信じないタイプだろう。
だけど戦いや大変動を体験し、場合によっては仲間が死ぬかもしれない。そして人間と戦う事だってあり得る。
そんな体験をしたら、多くの人間は帰るだろう。
ざっと計算してみよう。100人召喚して10人……いや、そんなに残るわけがないな。5人としよう。これでも甘い見積もりだろう。
ただその場合でも、大体1425人のラーセット人の命は無駄死にだ。
そりゃこっちが一方的に呼び出すんだ。その位、ラーセットの人たちだって分かっている。
それになりにより、今はそれなりに志願者がいる。
だけど国が安定し、豊かになる程に志願者は減っていく。
一応はこんな世界だ。病気や怪我、そしてセポナが奴隷になった様に、豊かになる程に経済格差は出てくる。借金を返せなくて生贄になる人間も出てくるだろう。
確か遺族にはそれなりの生活が保障されるとセポナから聞いた。
でもみんな、死にたくて死ぬわけじゃない。
必ず期待もしているんだ。これでラーセットは豊かになるって。
ところが働く召喚者が少なくなる程、彼らの命は安くなる。
次第に召喚する事自体が大変になって来るだろう。
そんな状況で、俺のスキルでも発見できない敵の本体を探して倒す? 無理だ。
――タダなら幾らでも召還して、幾らでも帰すんだけどな。
高校生の俺よ、お前ならどうする。
あれほど考えていた帰す方法を、俺は遂に手にしたぞ。
あそこまで過酷な状況に放り出されたのも、あれだけの事をしたのに直接俺の対処に来なかったのも、多分全部このためだ。
初代
そのためにどれだけの人間を犠牲にしてきたのか。
心が壊れていなかったのであれば、どれほど苦しかったのか。
きっと好き放題に暴れる俺を、血涙が出るほど憎かったに違いない。高校生の俺が
だけど実際に帰す手段を手にした時、俺は既に現実を知ってしまっているわけだよ。
あれだけの犠牲を出して、『帰ります』『はいそうですか』なんてなるわけがない。
ああ、胃が痛い。
現状を考えれば召喚者は多ければ多いほどいい。
今回は召喚者の数が少なかった事が、結果として
もっと多くの組み合わせを取れるようにしなくちゃだめだ。
そして便利なアイテムを増やすことも重要だ。召喚者が少なかった分、質も量も不足していた。
当然、最終目的も忘れちゃいない。だけどそのためには人手とアイテム、それに何より力が必要だ。
何だかんだで、俺が倒せなかった相手だ。自分の力を過信するわけでは無いが、無用な謙遜をしても仕方がない。
よし、召喚者を増やそう。
確実とは言えないが、帰せそうな希望もある。
だけど希望者全員を素直に帰すことは出来ない。無理やり呼んでおいて対価を要求するのは気が引ける。
対価とは、当然労働だ。拒否する者は……仕方がない。消えてもらうしかない。
確かに、これは昔の俺が絶対に許さなかったシステムだ。
だけど状況は変わった。今なら、きちんと働いたものは本当に帰す事が出来る……まだ『かもしれない』の範疇ではあるが。
それにもう本当に今更だ。やらなければ、召喚しなくとも全員地球で死ぬ。むしろここでスキルという超常の力を与え、抵抗する機会を与える事の方が人道的と言えるのではないだろうか。
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