第244話 社会人として報告は先に済ませないとね

 こうして手当たり次第に駐屯地を破壊して回った。

 ただ、現地人との戦闘は可能な限り避けた。

 別に俺が慈悲深くなったわけでは無い。前の歴史をあまり変えないようにしているわけでもない。

 というか、失敗した歴史をなぞってどうするよ。

 単純に、人との戦いにスキルを使っているほどの余裕が無かったからだ。向こうも大変だろうが、俺だって無敵の超人じゃない。結構綱渡りだ。


 スキルを制御するアイテムがあるとは言っても、これはある意味、限界を越えないためのリミッターだ。

 無くせばスキルをオフに出来ない代わりに、幾らでも使う事が出来る。代償として精神が壊れていくけどね。

 制御しやすくもなるが、それはあくまで副産物。本来の目的はそっちを防ぐためにあると言ってもいい。


 そんな訳で、向こうが集結して反抗して来たらちょっとヤバい。無理しすぎて制御アイテムがぶっ壊れたら、多分また意識を失って殺される。

 だけどまあ、その時は無視すればいいだろう。

 逃げた連中が全員籠城したら食料はもたないだろうし、逆に攻めてきたとしてもロンダピアザの防壁は健在だしな。


 という事で、その後もやる事は変わらない。ひたすら駐屯地の破壊だ。

 他の国の駐屯地もあったが、やる事は一緒だ。どっちにしろ敵国だから関係がない。敵は敵。そこに変わりは無いのだ。

 彼らの何割が生きて祖国に帰れるのやら。


 ――彼らだって人間であり、家族だっている。


 新庄しんじょうさんに言われた事は、ずっと耳に張り付いている。

 だけど、他に方法があるなら教えて欲しい。今の俺には、他に出来る事なんて何もないんだから。


 間違いなく、このクロノスの名は近隣諸国に知れ渡るだろう。最低最悪の召喚者として。

 まあ悪評などどうでもいいが、ただやり過ぎも良くない。実際何百万とか来られるとマズイ。俺が死ぬ。というか、ラーセットの評判まで落としたら本末転倒じゃないか。

 何事もほどほどにだな。


 こうして深夜を過ぎる頃には十数か所の駐屯地を破壊した。

 まだまだ大量に残っているが、そろそろこっちが限界だ。

 ロンダピアザからの呼び出しが無かったのは幸いだが、明日以降は分からない。

 ミーネルの肌が恋しい……いやいや、今の彼女は人妻だ。こんな事を欠片でも考えちゃいけない。


 ――娼館にでも行こう。


 頭の片隅にぷくーっと頬を膨らませた奈々ななの姿が浮かぶ。

 ああ、会いたいな。また昔の様に将来を語らいたい。だけど、今ここにはいない。

 仮に呼び出されても、彼女はまだ16歳。そしてその隣には、俺じゃない俺がいるんだ。





 ロンダピアザに戻った俺は、まず軍務庁へと向かった。

 ここも内務庁も神殿庁も、今は24時間体制だ。

 昔はもっとホワイトだったが、今はブラックというより緊急事態だからだな。


「これはこれは、お待ちしておりました」


 執務室に案内されると、そこにはきっちりと軍服を纏った軍務庁長官のユンスが執務中だった。

 俺が言うのもなんだが、少しは寝ろと言いたい。

 まだ若いとはいえ、トップが倒れたらそれこそ大変だ。まあ2歳しか違いは無いわけだが。

 それにしても、穏やかな顔つきに鮮やかなピンクの髪。何度見ても軍人には見えないな。


「周囲の駐屯地を幾つか破壊したが、まだまだだと思う。一応、マージサウルの駐屯地は粗方潰したが、意外と近くに他の国の奴がある」


「盟主であるマージサウルとの連絡と護衛用に他国軍の一部も配置されているのですが、その様子だと本当に直接行けるのですね」


「俺にとってはあの程度の距離は無い様なものだからな。ただ――」


「スキルですよね、聞いております。以前はアイテムが壊れてしまうほどに酷使なさったとか」


「ああ、ちょっとスキルを使い過ぎた。だけど今度はそこまではやらないよ。相手は……同じ人間だからな」


「そうですね。戦わないのが一番です」


 ちょいと危なかった。『怪物モンスターと違って、ただの人間だからな』と言いそうになってしまった。目の前にいる彼も人間なのにな。そんな事を口にしたら、絶対に心証を悪くするぞ。


「だけどそう簡単には撤退はしないだろう。まだ残っている駐屯地の数も多い。すごすご本国に帰るより、今はそこに籠った方が安全だしな」


「ですが、それには限界がある。駐屯地に入れる人数にも食糧にも限りがありますからね」


 さすが繰り上がりとはいえ軍務のトップだけの事はある。話が早い。


「明日も襲撃しようと思っているが、俺はただ壊すだけだ。こういう事には疎くてね。何かアドバイスがあったら聞きたいな」


「そうですね。力に関しては、我々ではクロノス様に協力できることはありません。むしろ足手まといですから。ですが、それは我々が後方支援も出来ないほど情けない事にはならないと思います」


「何か策があるか? 是非聞きたいな」


「では」


 そう言ってユンスが呼び鈴を鳴らす。

 さて、軍事関連のトップはどんな策を用意してくれているのかな。

 ただラーセットはこんな状態だ。部隊を編成して戦うみたいな話だったら拒否しよう。これ以上、くだらない争いで人死には出したくない。

 そんな俺の考えとは違い、入ってきたのは二人の軍人だった。

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