第245話 気持ちは嬉しいんだけどね

 一人は鮮やかなブルーのショートカットとキリっとした紺の瞳が印象的な女性だ。

 ただ背はそんなに高くない。155センチってところか。

 子供って程ではないが若い。18歳ほどか。しっかり軍服を着こなしているため胸のサイズとかは不明だな。見た目は平らだが、脱ぐとすごいかもしれない。

 腰に下げた長剣にはそうそう見ない美しいレリーフが入っている。間違いなく迷宮産だ。


 もう一人は艶やかな緑のセミロングに白い肌、そして異様に細い体つきが印象的だ。

 もし耳が尖っていたら、エルフだと言われても納得したかもしれない。

 身長はもう一方より少し高い程度の158センチって所か。感覚が女性であると告げているが、普通の人が見たら美少年と思うかもしれない。

 それ程に中性的な印象もまた、彼女がエルフといった人ならざるものに感じた一因かもしれない。

 こちらも少し短いが帯剣しており、木とも金属とも言えないような青いグリップと鞘からも迷宮産だと判る。


 まあそれ以前に、迷宮産は何か力のようなものを感じるので見た目はそれほど関係ないけどね。

 ただ逆に、彼女たちからは特別な力を感じない。

 召喚者じゃないからとかじゃないんだ。そうじゃなくて、この世界にもやっぱり達人のような人は存在する。

 俺のスキルの前では等しく人であることに変わりはないが、それでも何か他の人とは違う空気を纏っている。

 だが目の前の二人にはそれがない。普通の人だ。


「彼女たちは護衛か何かか? だとしたら不要だ。外では俺一人の方が動きやすい」


 軍人である彼女たちにとって、この言葉は侮辱だろうか?

 だとしても、足手まといを二人も連れて外に出るのはリスクを高めるだけで何も利点はない。せめて召喚者ならな……咲江さきえちゃんのように、共に戦えるタイプなら最高だ。

 そんな俺の考えを見透かされたのか、それとも事前に考えてあったのか――、


「もちろん、戦いの面で彼女たちがクロノスの役に立つとは考えてはおりません。背中を守る事さえできないでしょう」


「ならどんな意味がある?」


「もしこちらの勘違いであれば、容赦なく殴っていただいて構いません。私の考えが正しければ、クロノス様はこれから娼館に行くつもりでしたね?」


 今までにないほどに鋭い眼光を放ちながら、ユンスがそう静かに言い放った。

 やばい! 何で? ホワイ? どうして分かった。

 というか普段はおっとりしているのに、どうして今はそんなに軍人的な雰囲気を醸しているの?


「はあぁー、やはりそうでしたか」


 表情で分かってしまったのだろう。諦めムードで深い溜息をつかれる。

 いやそこまで落胆をあらわにしなくても。


「私も職に貴賤があるとは申しません。軍人も娼婦も男娼も、皆国という巨大な組織を担う大切な構成員です」


 おお、軍人とは思えぬ柔軟な考えに素直に感心する。

 どうも偏見だろうが、軍人は権威が何よりって大切ってイメージがあるからな。

 というか俺がソッチを買う可能性があると思われていたのか!?


「ただ、クロノス様はこの国の英雄です。そして、今後様々な形で世界中に名を轟かすでしょう」


 まあ悪名だけどな。


「そのクロノス様が、女日照りで娼館通いなどと知られたらどうなるか。ラーセットは英雄に何をさせているのかと、世界中の人が呆れ果てる事でしょう」


 その前に俺が呆れられるがな。

 だけど言われてみると気にしてしまう。悪名が広まるのは良い。むしろ敵に容赦しないという評判は、今後それだけでラーセットを敵から守るだろう。

 ただその中心人物が、日々夜の町に繰り出すってのはどうなんだろうな。

 確かにちょっぴり国の評判に傷がつくかもしれない。


「言いたい事は分かったが、まさかと思うが……」


「はい。彼女たちは怪物モンスターと人間、2回の攻撃により全てを失った者です。家も、家族も、親族も、友達すらもね。本来ならば召喚の代償として志願していましたが、私が願いクロノス様付きの侍女となっていただく事になりました」


「ケーシュ・ワー・セイエンです。どうぞよろしくお願いします」


 青い髪の女性が片膝をついて頭を下げる。この辺りの挨拶はこっちの世界と変わらないな。


「ロフレ・エディーゼル・バウマーです。クロノス様に絶対の忠誠を誓います」


 青い髪のケーシュと名乗った女性と同様に、エルフっぽい子も同様の仕草をする。

 とは言っても侍女ねぇ……名前はそうだが、今の話を考えれば違う事は明白だ。


「侍女たちは神殿関係者ではありません。彼女らは信仰の為に必ず女児を生んで引き継がねばなりませんし、多くの人が亡くなった今、失礼ながらクロノス様の相手をする余裕はありません」


 心の奥がズキンとするが、こればっかりは仕方が無い。ミーネルたちの事情も理解しているつもりだ。


「ですが、彼女らにはそのような宗教上の制約もありません。元々召喚の為の生贄として志願した者ですから、何のしがらみも持っていません。完全に自由です」


「この話を頂いた時、自分にもまだ生きる価値があるのだと目の覚める思いでありました」


「英雄であるクロノス様の夜伽が出来る事、この上なく幸せです。どうか存分に」


 直立不動で挨拶するケーシュと深々とお辞儀をするロフレ。

 逆らう事は出来なくもないが、その場合は娼館へ行くという事になる。

 それが無理な以上、この話は飲むしかない。

 仕方が無い……そう、仕方が無いんだ。

 それにしても、どういう人選でこの二人が選ばれたのやら。

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