第243話 無事に帰れると良いな
のんびり酒を飲みながら豪華な食事を楽しんでいたこの男には、状況が全く理解出来ていないだろう。
それにしても、このグレーの髪に黒いヒョウ柄をした髪はちょっと慣れないな。
というか、本当に意味が分からないと言った
何せ、俺がいきなりここに現れたと同時に要塞は解体した。先ほど言ったとおり、現在は火の手も上がっている。
彼の人生で、こんな事は流石になかっただろうよ。
「久しぶりだな。あれから――1年と1月ほどか。あの時は世界の脅威とか言ってくれたが、それもあながち間違っていないと今は思っているよ」
「将軍閣下!」
「この無礼者めが!」
将軍か。やっぱり使者といっても武官だったな。まあ見た時からそんな気はしていたよ。
取り敢えず、これ以上分解できないシンプルなナイフで斬りかかってきた護衛の命をこの世から外す。
召喚者と違って楽なものだ。
「おのれ、この怪物め! やはり貴様らはこの世界の脅威だ。滅びるがいい、召喚者めが! ええい、誰か! 誰か他にはいないのか!」
「この周辺で生きているのはお前くらいなものだ。一応かなり逃がしてやったが、慈悲では無いと言っておこう。これからお前たちの駐屯地を全部同様に破壊する。他の国の駐屯地に逃げ込めば、そこも同様だ。もう自国へ逃げるしかないまで徹底的に追い詰める。さて、武器も鎧も物資もなしに、何人が生きて祖国へ帰れるかな」
「こ、この……」
使者の男は真っ赤になって言葉も出ない様だ。
「何か言い残すことがあるなら聞いてやるぞ。つまらない命乞いとかなら聞き流すがな」
怒りから絶望、そして再び怒りと目まぐるしく表情が変わる。もしかしたら、心の片隅には本当に命乞いの選択肢があったのかもしれない。
というかあったな、これは。
もしかしたら『命は助けてやるから消えろ』とか言えば、一か月くらいは大人しくしていたかもしれないな。
だけど結局のところ、それで諦めて帰るわけがない。本国が許さないだろう。最終的には相手を
そして大抵の場合、それは弱い者――民間人を狙ったテロ行為となるわけで。
「うわああああああ! 死ねぇ!」
もう無駄だと空気で察したのだろう。食事用のナイフを手に襲い掛かってきた。
まあ帯剣もしていなければ鎧も着ていなかったしな。こんなもんだろう。
それに自分から来てくれてちょっと助かったよ。本当に命乞いなんかされたら、少し位は心が痛んだ所だ。
突進して来た使者――いや、将軍の頭を掴み、引き寄せる。
万力のような力で締め付けられ、ボロボロと泣きながらナイフを地面に落とす。あー、これはマジで命乞いをするかもしれない。
ここは先手を取っておこう。
「さようなら、使者殿。将軍らしく、先陣を切って逝くがいい」
「ま、まって――」
その言葉を待たず、命を外してポイと捨てる。本当に、人間などあっけないものだ。
これだけの要塞と部下達に守られていても、スキルという超常の力の前ではこんなものだ。
そういえば、最初にまともに話した現地の人間は勇者ホルメスだったな。
彼も召喚者を恐れていた。
あの時の俺は弱かったから、彼が俺に向けた感情に理不尽さと怒りを感じたものだ。
だけど今なら納得出来る。
ただでさえスキルなんて力があるのに、成長した召喚者は肉体だけで軽々と現地人を凌駕する。
もしあの時と同じ事を言われたら、俺は迷わずこう答えるだろう。
「ああ、化け物だよ。だけど君達の味方だ。ラーセットを守る者だ」……と。
ついでに、「だから助けてくださいお願いします」と言ったような気もするね、あの状況じゃあ……。
だが感傷に浸るのもここまでだ。
後は予定通り、次の駐屯地までの距離を外す。
突然現れた人間を見て出会った兵士達はキョトンとしているが、それも一瞬。
駐屯地はまるで作った時の逆回しの様に分解され、炎に包まれる。
そして何人かを捕まえては、あいつと同じ様な事を囁いてやった。
「お前たちが逃げた先の駐屯地は潰す。逃げなくとも、どのみち全ての駐屯地は潰す。抵抗できるなら存分にするがいい。もっとも、お前が到着するよりも先に、近くの駐屯地は全て炎に包まれているだろうがな」
「た、助けて……助けてください。故郷には、妻も子供もいるんです」
「安心しろ。わざわざ個人を狙って攻撃するような真似はしない。そんな暇じゃないんでな。だが――お前が帰った時、まだ故郷や家族が残っていると良いな」
そう言って、次の駐屯地へと飛んだ。
うーん、これじゃ完全に悪役だな。500年前にやらかした召喚者の行動にはさすがに引いたが、俺がやっている事も似たようなものか。
いやいや、俺は
というか、俺みたいに知識が無い人間がやっても、間違いなくラーセットを巻き込むだろうしね。
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