第242話 見事な要塞を作ったものだ

 順番としては、ロンダピアザ周辺の敵駐屯地を一掃。並行して入れ違いに攻めて来る敵特殊部隊の殲滅か。

 召喚はちょっと後回し。考えないといけない事も多いし、今以上の覚悟も必要だからな。


 最初の目標にしたのはマージサウルの駐屯地。連中の盟主だからな、潰す最初の目標としては最適だろう。

 途中には他国の駐屯地や見回りの兵士達もいたが、全て無視。というより、俺の存在を外してやり過ごした。

 召喚者でなければ見つけられもしないだろうな。


 そういえば、イェルクリオの首都、ハスマタンで出会ったクロノスは全く姿が見えなかった。

 今後の事を考えればやるべきだろうな。

 いやまあ、それは後で考えよう。





 最初の目標としたマージサウルの駐屯地は、それはもう見事な造りだった。

 全体の形状としては円形だ。

 周囲は二重の空堀に守られ、間には先端の尖った木の杭が壁として建てられている。

 更にはそれを護るように、斜めに設置された槍のような丸太が設置されていた。

 あれは騎馬や大型の怪物モンスターの突進対策だろう。


 更にはその内側を囲むように幾つものやぐらがたてられており、多くの兵士が見える。ほぼ全員が弓兵で大型弩弓バリスタまで設置されている。おそらく見えない所には、弩も置かれているだろう。

 今は昼だが、かなり高所まで設置できる松明も用意されている様だ。

 その内側には兵舎が規則正しく並んでおり、巡回する歩哨が見える。


 ――これは想定以上だ。


 石垣はもちろん、街の様な壁も設置は出来ないだろうと踏んでいた。だから大した防衛施設ではないだろうと読んでいたが、前者は当たりで後者は大外れだ。

 人間の知恵を侮ってはいけないって事だな。斧とスコップと自然があれば、こんなにも立派な要塞を作れるわけだ。


 配備されている兵士はざっと見て3万人ほど。ただここを囲むように同じようなマージサウルの駐屯地が設営されており、総兵力は10万に達するかもしれない。

 かつて北の小国を滅ぼそうとした時は300万人集めたそうだが、それにくらべれば遥かに少ない。

 伝説が誇張されているのか、長い年月の間に軍隊の体系が変わったのか……いや、マージサウルの駐屯地がここだけと考えるのも早計か。それに離れた所には他の国もいるしな。全部合わせれば、やっぱり相当な数になるだろう。


 だがまあいい。俺のスキルで、あの時の使者がここに居るのは分かっている。

 いる可能性の無い場所は全て外したからな。もうここにしかいないという訳だ。

 では、彼等には……えっと、500年ぶりだったか。召喚者の恐ろしさというものをその身に刻んでもらおう。


 半端な覚悟で来たわけでは無い。やる以上は、単なる後悔だけでは済まさない。

 連中には、クロノスの名を聞くだけで恐れ震え、戦えない程に恐怖を植え付けなければならない。

 ふう……この件といい召喚者の件といい、俺の逝く場所は地獄確定だ。

 若く純粋だった頃の俺よ、すまない。俺はすっかり汚れてしまう事になるよ。

 自分がする事を考えて、今さらだけど手が少し震える。

 だけどもう、やる以外に道は無い。





「敵襲―!」


「何処だ! 敵は何処だ!」


「総員戦闘配備! ラーセットが攻めて――うわああああ!」


 確かに簡素ながら見事な要塞だった。

 だが柵を外し、槍も外す。それらはまるで地面に喰い込んでいかったように不自然に抜け、バタバタと倒れだす。

 櫓なども同様だ。組んである構造を外す。壁より遥かに簡単だ。ついでに弩や弓なんかも全部外しておこう。

 当然兵舎も全て分解する。崩れる兵舎から出てくる奴もいるが、寝ていた奴はほとんど倒壊に巻き込まれただろうな。

 ああ、武器もそうだな。槍は穂先を外せばいいし、剣も分解してしまおう。ついでに鎧も外せばもう丸裸同然だ。


 夜はさぞかし明るく照らすのだろう。油の備蓄は十分にあった。物資不足のラーセットへのお土産にしたいが、最初の駐屯地からそんなに欲をかいても仕方が無い。


「では派手に燃えてもらおうか」


 重力を外し、油の詰まった樽を空へと飛ばす。

 空で樽を分解してしまえば、降り注ぐのは油の雨だ。

 さすがに灯油やガソリンの様に派手には燃えないが、それでも所々で火の手が上がる。まだ昼間だが、こういった砦は火を絶やす事は無いからな。

 そして一か所が燃えれば、後は勝手に燃え広がる。


「大した要塞を作ったが、俺からすれば積み木のおもちゃと変わらなかったな」


 俺の前には、あの時に出会ったマージサウルの使者がいた。

 外から一気にここに飛んで、今説明したことをやったんだ。既にこの要塞は完全に解体され、燃える炎に包まれつつある。

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