第240話 考える事が多すぎてどうにかなりそうだよ
内部の敵を一掃してから数日後、生き残りの人々は軍務庁の宿舎で保護されている。
食料は配給制。医師も薬も何もかも足りない中、怪我人は容赦なく増え続けている。
そして外には敵軍が集結中。それでも暴動も略奪も起きてはいない。
地球での話だが、あっちは大量不審死事件の時は酷かったもの。世界の終わりだと、世界中で暴動が起きた。人間とは、生きるためならここまで醜くなれるのかと逆に感心したよ。
それでも、あの青白い
それに比べれば、こちらの方が厳しい世界な分、国民も意外と忍耐強い。
だけどいつまでもこんな状況ではいられない。一刻も早くこの状況を打破し、日常を取り戻さなければラーセットの人々の精神も限界だ。
そんな事を考えながら、俺は軍務庁の建物へと向かっていた。今日はここで会議だ。
軍務庁の建物は普通の高層ビル。
中は毎度の執務室。というか場所は変わっているが、藤色の壁紙に石張りの床。それにレリーフが施された机や椅子などの調度品など、いつも同じだ。伝統なのだろうか?
ただメンバーは半分変わっている。
聖堂庁のミーネルは変わらないが、軍務庁はユンス・ウェハ・ロケイスという男に変わっていた。
軍務庁は俺達の世界の様に明確に階級分けがされており、上が倒れたらそのまま下が継ぐ。
彼はロンダピアザ防衛隊18地区守備隊長という肩書から、5階級ほどすっ飛ばして今の地位になった。被害の程が伺える。
年齢は27だそうで、俺がこの世界に来た時よりも若い。鍛えられた肉体は流石軍人という感じもするが、全体的な雰囲気は少しおっとりとした好青年だ。
髪が見事なピンク色なのは誰も気にしていないだろうが、俺はちょっと気になる。
内務庁も似たようなものだが、部署ごとに派閥というものがある。
だけど、今の人に変わる時には色々あったらしい。
まあ俺には関係ないが。
名はゼルゼナ・アント・ラグ。女性で、齢は38だそうだ。少し太めで、丸い眼鏡が特徴といえば特徴か。
髪は紺のセミロングで、これもこの国では珍しくない。
特徴が無いのが特徴ともいえるが、普通の人に紛れていたら絶対に見つけられないと思う程に華やかさが無い。
人気商売の内務庁でこの人事という事は、よほど優秀なのだろう。緊急事態だしな。
今回の議題は大きく分けて3つ。細かく分ければ山ほどあるが、俺にとって政治の話は関係ない。
いや本当に全くないとは言えないけどな。それでも今は気にしない程度だ。
第一に、現在このロンダピアザ周辺に展開している他国の軍隊の件だ。
対
封鎖に参加していない周辺国は少ないとはいえ、あるにはあるのだ。そことの交易が無いのは痛い。しかもこれから復興しないといけないのにだ。
第二に、新たな召喚をどうするかだ。
これは完全に俺に一任されている。来るのは俺と同郷の人間だしな。
しかしこれは悩む。つい先だって、苦渋の決断で三人を召喚した。どうしても必要だったからな。
その時、俺はもう地獄に落ちる覚悟はした。だが、彼等は先に逝ってしまった。
この口惜しさをどう表現すればいいのか。そして、これからどうすればいいのか。
――アルバトロスさんともう一度話したい。
彼はいったい、どこまで知っていたのだろう。このラーセットという国の話を聞いた時に感じた状態と、今の状況がかけ離れすぎている。話が噛み合わなかったのはそのせいだろうか?
それに俺達の世界が亡びることを知って――いや、正しく知る事は無理だ。だけど聞いていたのだろうか?
いいや、今話したい事は違うな。
俺は結局、ラーセットの為に3人を召喚し、騙して働かせ、殺してしまった。あの時には全面的に否定したのに。
当時の俺が間違っていたのか?
それとも、俺は理想の大人になれなかったのか?
その問いに、何と答えてくれるのだろうか……。
だがそれは別としても、考えれば考えるほど溜息が出そうになる。
召喚するかしないかと聞かれれば、召喚するしかない。
この世界では、弱い国は簡単に乗っ取られる。まあそうなったからといって、国民が皆奴隷になるとか、そう言った事は無い。だが勝者が有利な立場になるのはある意味当然だ。
だから対等な自由の為には国力がいる。特に今回の襲撃でよく分かった。迷宮産の武具が無ければ、ほんの少数の部隊に入られただけで大虐殺が起こる。警戒するためのセンサーなども、迷宮から掘り出されるアイテムだそうだ。
やはり何もかもが足りない。もっと集めなければ、この国の人たちに未来はない。
まあ、未来の無さは俺達の世界も同様だ。
全てが分からない。何をするにも保証はない。だけど、少なくともあの青い
これは単純に世界を救うとかの話だけじゃない。俺は帰った。
帰れる事は事実なんだ。そして記憶を失うことも。最初に聞いた説明の全てがデタラメなのではなくて、実際にクロノス……いやまあ別の俺なんだが、それが体験した話って事か。
ただ
ただどうにかしなければ、全部忘れて帰ってもダメなんだ。
数年後には
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