第239話 俺はまだ死ぬわけにはいかない
オレンジや黄色い髭に禿げ頭の襲撃者集団。
迷宮産の武器で武装した特殊部隊ってところか。武器や鎧に統一性は無いが、髭や髪型が特徴的過ぎる。おそらく民族的な特徴だろう。まあ、そんな事は後でゆっくり調べればいいさ。
背後から現れた突然の襲撃者に対して、彼らは一瞬だけ驚いた。だが反撃はない。そんな余裕は与えない。
そうだろう。彼らは普通の人間だ。俺はただ近づいて、彼等の命を外してやればいい。
目標になった奴はその場で死ぬ。連中からすれば、悪魔降臨ってところか。
それにしても、アイテムを使っている分、逆にスキルには制限がかかる。
とはいえ、以前と比べて格段に使いやすい。そして強い。
多分だが、前に召喚された時に成長したスキルが残っているのではないだろうか?
無分別に使いまくり、本来なら壊れる心をみんなに癒してもらった。普通の召喚者ではリスクが大きすぎて絶対に出来ない急成長。
だとしたら、俺は今、相当に強いのではないだろうか?
声をかけてから、バリケードを外す。
複雑なパズルも、俺のスキルからすれば意味がない。
まるで最初から組上がってなどいなかったように、バラバラのパーツになって地面に転がった。
「みんな無事か?」
「「「クロノス様!」」」
中にいた人たちが、一斉に駆け寄ってくる。
最初に来たのは以前共に暮らした少女たちの生き残りだ。確かこの子たちは優秀な成績だったからな。それだけに奥に居て生き残ったのだろう。
そしてそこには、ミーネルもいた。聖堂庁長官にして大神官。そして召喚の要。だがそんな事なんてどうでも良い程に、彼女が嬉しかった。
本当なら、すぐに駆け寄って抱きしめたかった。だけど――、
「やっぱりミーネルの言った通りだった。おお、クロノス様。ありがとうございます」
そう言って、ミーネルの夫が俺の手を取って歓喜の涙を流す。
それを微笑と安堵の表情で見ている彼女を見て、改めて思った。
“幸せそうで良かった”と。
だけど、再び夫と抱き合う彼女を見て胸が苦しくなる。
彼女にとって、俺はもう過去の人間だ。そうでなくては困る。
だけど俺にとって、彼女と過ごした時間はついさっきだ。ほんのちょっと前まで、互いに肌を合わせ、愛を語らい抱き合っていたんだ。
そんな事、口どころか顔にも出してはいけないけどな。
それよりもこの問題を片付けなければいけない。
先ずは街にいる連中だ。大本命がここだとしても、陽動はまだ続いている。
となれば、重要箇所の多くが襲撃を受け、その中にはまだ抵抗している場所があるはずだ。
特に外へと繋がる門が問題だな。そこをやられてしまうと、もうラーセットの防備は裸も同然だ。
「俺は外の始末をつけてくる。多分大丈夫だろうが、またバリケードを頼む。その前にこいつらの武器を回収しておいてくれ。使えるはずだ」
「いえ、死者の武器を使う訳には」
「するにしても、清めの儀式を行ってからでなければ……」
あー、それで勇者の剣にあれほどの反応を示したのか。
やっぱり国ごとの風習はきちんと理解しなとダメだな。
もっとも、あの時にはそんな時間も余裕もなかったけどな。
それに今は、そんな事を考えている場合じゃない。
もう守る対象は見つけた。これ以上は普通に移動する必要は無い。敵を探索し、距離を外して一気に襲撃する。
こいつらは特殊部隊。隠密行動をしながら破壊や暗殺を行う部隊だ。
それだけに、まさか連中もここまで早く正確に発見されて襲われるなんて思ってもいなかっただろう。
後は一方的な
命乞いをしなかった事だけは褒めてやろう。結果は変わらないがな。
こうしてロンダピアザに入り込んだ連中は全て処分した。
数は2千人程だったか。随分と入られてしまったものだ。それにかなりスキルを使ってしまい、
だけど感じる――この街を囲むように配備されている多数の人間を。
単なる封鎖か? それもないだろう。もしも門が開いたら、奴等は動く。
そうでなくても、やがて再度の降伏勧告が行われるだろう。
この国が亡びるか、俺が死ぬか。
ふと、落ちている剣が目に付く。
あんな物でどうにかなるものでもないが、自分で自分にスキルを使えば、あんな物でも死ねるかもしれない。
だけどそれでどうなる? 俺がいなくなれば解決するのか?
あの青白い
そして地球もまたそうなる。
どうしてこっちの世界では地球ほどに広がらないかも考えたが、まあ生物の世界は天敵とか環境とかで色々変わる。地球は奴等にとって無防備な楽園だったというだけの話だろう。
まあそんな事はどうでもいいか。
俺はこんな所で自害なんてしない。している余裕もないんだから。
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