第235話 真実を話すなんて出来ないわけで

 儀式は続いているが、もう俺の頭の中は無茶苦茶な状況だった。

 どちらにせよ、召喚者には現実を伝えなければいけない。その過程で、召喚者はこの世界で子孫を残せない事を伝えないといけないわけで……。

 当たり前だが、それはそのままミーネルにも伝えなければいけないわけだよ。はあ……。

 それに召喚されてくる数がな。

 俺の時は上限50人だったが、ここで49人召喚されたら対処する自信がない。

 でもまあ、生贄の数が少ないしな。そんなに多くはこないだろう。


 そうこうするうちに塔と時計の輝きは消え、3人の人間が残された。

 全員男。見た事もない制服だが、体格からして高校生に見える。

 皆死んだように眠っているが、そういえば召喚者は暫くこうして無防備状態になるのだったな。

 俺の時は緊急時という事で無条件でたたき起こされたが、経験者だったからなんとかなったわけで。

 ここはまず、普通に経過を観察する事にしよう。





 これが結構長かった。

 2日間眠りっぱなし。本当に生きているのか不安になって、何度も確かめた。

 けれど、同時に変化も感じていた。

 この世界に召喚された時は、本当に普通に人間だ。生まれたての赤子の様な感じだな。

 だけどこうして2日経った今では、内側から何か力の様なものが作り出されているように感じる。

 多分あれが、スキルの元。そして召喚者の力の源なのだろう。

 やがてそれが全身に行き渡った頃、3人の少年はほぼ同時に目を覚ました。

 その兆候に合わせて、急いでこちらも用意だ。





 目覚めた少年たちは、周囲の状況を見て目をぱちくりさせる。当たり前だろうな。

 そしてミーネルの半裸衣装を見て真っ赤になっている。初心ウブだなぁ。


「ようこそラーセットへ。わたしくは神官長のミーネル・スー・アディンと申します。いきなりの事で驚いたと思います。ですが、どうかこれよりわたくしの話を聞いてください」


 最初に呼び出されたのが高校男子と言うのはかなりラッキーだったかもしれない。

 2人は大きな胸をガン見、一人は下半身をガン見。話なんて聞いちゃいない。

 うん、まあこの方が助かる。


 ミーネルとは、事前に説明すべき内容を話し合っておいた。


「今、この国は危機に瀕しています。つい先日、数多くの怪物モンスターによって国家は壊滅の危機にあり、またこの状況にも関わらず、周辺国がこの国を侵略しようと動いている状態です」


「おいおい、なんだよそれ。意味が分からねーよ」


「そんなの俺達には関係ないだろ?」


「まさか戦争に参加しろっていうのか? 後で考えるから、今は日本に帰してくれ」


 まあ当然の反応だろうな。というか、むしろ順応しているのが逆に驚きだ。普通はもっと意味不明って顔をして二の句も継げないだろうに。


「時間に関しては問題ありません。この世界でどれほどの時を過ごしても、貴方がたが元いた世界の時間は動いていません」


「そんなの信じられるかよ! 俺はいま直ぐ帰りたいんだ! 早く帰してくれ!」


「この世界から帰る方法はただ一つ。この世界で命を落とす事です」


「なんだそれは! ふざけるな!」


 三人がギャーギャー叫び出す。

 これも予想済みだ。こういう時に“よし分かった!”なんていうのは、生まれ持っての主人公気質の奴か、ただの馬鹿だ。


「こちらの世界の貴方がたは、魂だけがこちらに来ている状態です。その肉体も、ただの器にすぎません。今はそれに憑依していますが、かりそめの肉体が破壊される事で魂は元の世界へと戻ります。いわば、ここは貴方がたにとっては夢の中の様な状態なのです」


 もちろん嘘だ。そんな都合のいい話などありはしない。この世界で死んだら、それは本当の死だ。

 俺はこの件に関してずっと悩んでいた。召喚して戦えと命じる。それで従うだろうか?

 ましてや、人を殺してくださいとお願いして、聞く奴は百万人に一人もいないだろう。

 もし即答でOK出す奴が呼び出されてきたら、それはそれで怖いわ。


 だからこうした。

 責任なんて取りようが無いだろうが、責は全て俺が負う。これからの事を考えると気が重いけどな。

 だけど帰れないという真実は話せない。『死んだら本当に死にます』なんて事も話せない。

 もし真実を打ち明ければ、間違いなく彼等は戦わないだろう。

 もしあの怪物モンスター共と戦っている時代から来たなら状況は違っているだろうにな。だけど彼等の放つ平和な空気からは、戦いの匂いを感じることは出来なかった。

 十中八九――というより間違いなく、召喚された日はあの日だ。


 彼等が戦いを拒否した場合、当然面倒は見る事になる。わがままも許すしかないだろう。

 だけど、彼等にはスキルという強力な力がある。俺もいつまでも彼らの監視などしてはいられえない。

 そしていつか暴発するのだ。帰れないストレスと、この国を取り巻く厳しい状況に嫌気がさして。

 義勇兵の様に立ち上がってくれる可能性にかけたい気持ちもあったが、結局見返りを提供できないのでは同じことだ。

 最悪の場合、他国に良い条件を提示されて寝返る可能性もある。

 その時は当然……。


「――そして、貴方がたにはスキルと言う強力な力が神から授けられています」


 俺が罪の意識に悩んでいる間にも、話は進んでいた。

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