第233話 間違いなくトラブルの元になるな
ミーネルと別れ、俺は自室のベッドで横になっていた。
とにかく、山積みになっている出来事の整理をしなくちゃいけない。
俺は歴史の修正力なんてものを信じてはいない。そもそも過去に戻る事自体を信じた事が無かった。
だが現実に、今俺は過去のラーセットにいる。だが本当にそうか? もしかしたら、パラレルワールドなのかもしれない。同じ世界である保証は無いって事だ。
だけどあいつ――クロノスは俺に言った。記録には残せない口伝とやらを。
今なら分かる。あれはこの世界に来てから。そして俺と出会ってからどうしたかの記録だ。
だから俺が召喚される事は間違いない。
すると
普通に考えれば召喚される。俺が召喚されるのだから、当然だろう。
だけどそれは憶測でしかない。もしかしたら、俺だけが召喚される歴史を繰り返しているのかもしれない。
――もっと色々知っておきたかったな。
だけど当面の問題は、ラーセットを取り巻く世界情勢だ。
なんでも、宣戦布告をして来たのはマージサウルの他、周辺国のリカーンとデモネル、それに西と西南に位置するロスターヌスとアイベット。
これだけでも面倒なのに、更には南方のイェルクリオも動きを見せているという。
正直最悪だ。
まあ実際戦争になっても、この世界の軍事バランスは攻撃よりも防御に特化している。
実際、主な相手は
だから戦争となっても、直接軍隊が壁攻めをする事は
まああの壁、何千メートルもあるしな。
ただ周辺国と協力しての経済封鎖や様々な条約の破棄。更に、首都自体は落とせないにしても、軍隊による威圧や少数のゲリラ部隊による壁外への攻撃などなど。まあ嫌がらせのオンパレードだ。
というか、迷宮産の武器を持った特殊部隊がテロなんて始めたら防ぎようがない。対処は出来ても、全ては後手後手だ。
俺は抵抗で来ても、今のラーセットにその力はない。国家の存続すら危うい状態だ。
しかも外交で押さえ込まれた状況を力で打破する……かつて地球で起きた大戦の図式そのものじゃないか。
勝敗はともかく、双方の被害は相当なものになるだろう。ましてや当のラーセットがこの状態では、戦えるのは俺しかいない。
大昔北方に現れたという召喚者のように、セーフゾーンや
まあそんな事をしたら、この世界の滅亡は相当に早まるだろうな。
ふう……出来るわけがない。
ならせめて、攻めてくる軍勢と戦って追い返すしか手はないのか。
でも一人で? はあ……現実味の欠片もない。
頭に浮かぶのは、召喚の塔だ。
手数が欲しい。先ずは俺の為にも、この国は守らなければならない。
それはすなわちこの世界を守るためであり、同時に俺たちの世界を守る事だ。
そして一刻も早く世界を襲ったあの
そうすれば……そういえば、
ハスマタンは消滅したのだろうか? やつらの本体は倒せたのだろうか?
何も……分かりなどしない…………悔しい。
翌日、軍務、内務の2庁の長官から正式に要請が来た。ミーネルも聖堂庁長官として来てはいるが、今回は中立の立場らしい。
というか、内容なんて、聞かなくても分かっているよ。
だけどその後どうするかが何も決まっていないんだ。
でも、時計の針は止まらなかったって事なんだよな。もう何度、間に合わないふがいなさを嘆いたか分からないな。
「単刀直入に申し上げると、新たな召喚者を呼び出したい」
「だが、クロノス様の様に我々の要請に応じて貰えるかどうか……」
軍務、内務の両長官の要求はシンプルだ。
まあグダグダ遠回しに言われるよりはよっぽどマシだが。
「俺の時はどう考えていたんだ?」
「きっと救ってくださると信じておりました。ですが同時に、どうせ滅びるのなら、せめて伝説の召喚者様の手でと考えた事も否定できません」
楽観的だと言いたいが、あの時の状況を考えれば心中は痛いほどわかる。でもそれって、俺を巻き込んで心中するって事じゃない?
そんな事を言いたいが、実際にもう国家の滅亡は決まっていた。そう、あの時まで。
俺がもしこの世界の住人で、
考えるまでも無いな。
だけど新しい召喚者を呼び出すと言われても難しい。
あの塔と時計を作った今、何人呼び出せるんだ? 収拾は付くのか?
『この国がピンチなんです! 救うために皆さんの人生をください。あ、帰れないし、長くこの世界に留まると弊害も出るらしいですけどね』
――ダメに決まっているだろう。
それぞれ人生ってものや立場ってものがあるんだ。夢を奪われ、場合によっては家族や恋人と引き裂かれ、この国のために戦え。しかも死は常に傍にある。
いや、マジで無理だろう。
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