第232話 冷静に考えれば壊せるわけがないじゃないか

 塔も時計も、破壊するのは簡単だ。

 特に塔は、実際壊した経験があるしな。

 そして召喚者にまつわる全ての悲劇が消える。歓迎すべき事じゃないか。ずっとそれを願って来たじゃないか。それが今、堂々とできるんだ。


 そして世界はやがて滅びる。どちらの世界もな。

 俺が初めてこの世界の外を見た時、人は滅びつつあるのではないかと思った。

 色々な意味でインフラが脆弱だったこともあったが、もしかしたら何かあの怪物モンスター共に関して予感めいたものがあったのかもしれない。


 そして俺達の世界に現れた奴ら。あれは何で来た?

 呼び出されてから今日までの戦いで、相当数をこの世界から外した。それが実は地球に現れたのか?

 だけどそれは違う。本体がいなければ増える事は無い。まあメスだけで放置したら単為生殖で増えるようになった生き物の例もあるが、あれは違う気がする。

 確実なのは、ここより遥かに速いペースで増え続け、あっという間に俺達の世界は滅びに向かって一直線に進んだという事だ。

 俺がこちらに召喚されたという事は向こうの時間はこちらから見れば止まっている。だが現実には1秒として止まらず続いているんだ。


 それに、分からない点が多すぎる。

 連中は寄生して増えると聞いた。本体がいるともな。

 そしてラーセットを襲ったが、クロノスが撃退した。まあ俺だ。だけど本体は倒せなかった。

 今回はどうだ? まあ多分ダメだったろうな。今から探そうにも人手が足りない。


 そして約百年の時を経て動き出し、雲霞の如く大軍となって南方の国に押し寄せた。

 他の生物も確かに多かったが、人間も多かった。

 あの人間は何処から来た?

 滅ぼされた国の人間か? なら今までどこに隠れていた? なぜこの時ラーセットに攻めてこなかった?

 謎が多すぎて、一人ではどうにもならない。


 確定していることは、高校生の俺は、またこの世界に呼び出されるであろうという事だ。この塔と時計を破壊しなければな。そうでなければ、この連鎖は続いていない。奈々ななや先輩も、やはり呼び出されるのだろうか。

 無意識のうちに、塔に手が伸びる。だけどダメだ、壊せない。

 ここで破壊したら、地球は死滅する。召喚されなかったみんなも間違いなく助からない。

 きっとみんな大学に進み、奈々ななも先輩も誰かと交際し、もしかしたら結婚して子供を作っているかもしれない。でもそれは、ある日突然に踏みにじられるんだ。

 原因を突き止めなければならない。奴等が地球に現れた原因を。


 なあクロノス――いや、歴代の俺。皆ここで悩んだのか。そして……壊せなかったんだな。

 そうだ、壊すことはいつでも出来る。今はとにかく情報を集めるんだ。

 取り敢えずは、内務庁長官のケールさんが持っている本だな。その他にも、沢山の本があるだろう。

 それを片っ端から調べまくる。それしかないだろう。





 そんな甘い期待は、その後脆くも崩れ去った。

 使節団が帰って数か月。年も変わって大月歴とかいう134年。

 俺はミーネルたちと蜜月な日々を過ごしながら、国家秘蔵の書庫に通い、また迷宮ダンジョンにも潜った。

 ちなみに一人ではなく、荷物持ちポーターや護衛やらもろもろの大人数で。

 正直言って迷宮ダンジョンは一人のほうが気楽だったが、確かに荷物持ちがいるといないでは回収量が段違いだ。

 それにミーネルが気を利かせて同行させてきた少女たち。正直邪魔だったが、うん、すごく役に立ってくれた。何にとは言わないけど。


『お前は根っからのスケベで女好きで変態だ。アイテムがあってもそれは変わらない』

『へんたーい』

『へんたーい』


 こんな時まで幻聴で登場しないでください、ダークネスさんとオトモの双子。

 貴方まだいないでしょう。


 まあそんな生活をしていたのだが、ある日迷宮ダンジョンから帰った俺を、血相を変えたミーネルが出迎えた。

 その様子を見れば、ただ事じゃない事はわかる。理由は聞かないと判らないけどな。また怪物モンスターの群れがやって来たのだろうか?


「大変な事になりました。マージサウルらの連合国軍が、ラーセットを滅ぼすと決めました。さもなくば……その……」


「俺を殺せか」


「そこまでは。ただ送還せよと。ですが、その手段をわたくし共は知りません」


「大昔にあった北の国とやらの記録は無いのか? 何度も召喚と送還を繰り返したんだろ?」


 言いつつも、無駄な事はわかっていた。

 ここで有りますとか言われたら逆に驚くわ。


「色々当たっては見たのですが、当時の記録はもう残っておらず……異端の国として資料も他の国は保有していないそうです。何より召喚の技術自体が残っている国がそうはありませんので」


 まあ、世界の厄災とまで言われちゃそうだろう。魔女狩り真っ最中の頃に、魔女になる方法なんて本を出すようなものだ。


「どうしてこの国は、俺を召喚できたんだ?」


「以前の使者様が仰っていたことを覚えておられますか?」


 あれに様なんてつけなくていいのに。


「ああ、北の国での話かな?」


「ええ。実はマージサウルはその時に参加して、相当手酷くやられているのです」


「そりゃまた……しかし500年以上も前の話だろ。あいつが生きていた頃の話でもあるまいに」


「そんなに変でしょうか? あ、もちろん恩も忘れませんよ。クロノス様の偉業は、たとえ代が変わっても歴史に刻まれるでしょう」


「いや、そんなの要らないよ。それよりも……」


「あ、何故なぜかの話でしたね。ここラーセットはその時に参加していませんでしたので、それなりに交流があったのです」


 国の使者が移動だけでも大変なのに、よくもまあ交流出来たものだ。

 だけどこの世界にはアイテムもあるし、案外その召喚者自体がここに来た事があるかもしれないな。

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