第228話 考える事は沢山あるのだが
あれから一週間が経った。
だがまだ見かけ上は、さほど変わらない。
まだまだ消えてない炎から黒煙が登っている。だけど、それも最初の日よりもマシだ。
かなりのビルが倒壊しているが、壁が無事なのは幸いと言える。
あれがある限り、今は更なる外からの脅威にさらされなくて済む。
とはいっても、これを復興させるのは大変だな……。
だけど、今は再建よりも生存者の探索と救出が先だった。
そして続々と各地の救護施設に運ばれてくる人々の所に赴き、全てを外す。基本的には怪我や病気、それによく分からないものだな。
医者になっていてよかったよ。とにかく、健康を害している物や害しそうな物は全て外しておく。
何せ奴ら増える。それが何かの寄生なのかウイルスなのか、それとも俺達の世界ではまだ見つかっていない極小の何かかもしれない。
もしかしたら外せていないかもしれないけど、やらないよりはましだ。
そんな事を続けるうちに、俺はこの国の救世主になっていた。
とはいっても、全てを救えるわけでは無い。俺のスキルにも時間にも限りがあり、患者は何百万人と残っている。
手が足りなすぎる。せめて簡素な物でも良い。迷宮で薬を集められないものだろうか。
当然――俺一人では無理な相談だが。
「クロノス様。浮かないお顔ですが、何かわたくし共に粗相がございましたでしょうか?」
少し心配そうに――そして申し訳なさそうにミーネルが覗き込んでくる。
ベッドの上で!
全裸で!
しかもほかの数人の女の子も同様に。
いや、先に言い訳しておこう。
もう大丈夫だよと言ったんだ。本当だよ?
だけど毎日移動してはスキルを使うという生活は、確実に俺を蝕んでいた。
そんな訳で、結局毎晩ミーネルと他数人と一緒に夜を過ごす事になったんだよ。
決してスケベ心からでは無いのだ!
「クロノス様はお疲れです」
「数日お休みになられましても、誰も不満は申しません。ですからクロノス様はご自愛を」
「……ああ、ありがとう」
そう言って、両手で左右の少女たちの頭を撫でる。
ただ、このクロノスってのが問題だ。俺の名前は
クロノスってのは、あのゲームの登場人物で主人公だ。他にも様々な神話に登場する神様としても知られているし、そんなブランド名もあったかな。
だけどそんな事は考えても意味はないだろう。この世界がラーセットである以上、クロノスの名前が意味するところは一つしかない。
何でクロノスなんて名乗ってしまったんだろう……。
いうまでもない。
あいつもそうだったのだろうか。
ハスマタンで戦ったやつ――クロノス。
あれもまた俺だったのか? 考えるまでもない、俺だよ。
ならどうして最初からそう言わなかった!
なーんて、答えはちゃんと言っていたな。様々な失敗の話。今ならよく分かるよ。
あの時伝えられた口伝。それは代々の俺が試してきた内容だ。何かに書き残す事なんて出来ないからな。
多分、もっと沢山あったはずだ。とても言葉では表しきれない程に。そうして様々な手段を試し、模索し、それでも失敗した。
だけど全員諦めはしなかった。いつか来る未来に抗ったのだろう。
誰かが切った所で、この連鎖は尽きているのだから。
……って待てよ。何で切らなかったんだ?
考えるまでもないか。俺は何があっても諦めないよ。以前の俺も、そうだっただけだ。
取り敢えずこれから色々な出来事があり、それぞれについて考える事になるだろう――なんて考えていたら、それは早くもやってきた。
「クロノス様、クロノス様。大変です。マージサウルから使者がやって参りました」
あれから1ヵ月。合同葬も終わったが、まだまだ国家の再建には程遠い。
というか、瓦礫の撤去自体がまるで進んでいない。
でもそれは仕方がない。この国の政治は3つの庁の合議によってなされている。
トップは持ち回りだが、それ自体にあまり意味はない。
神殿庁のトップはミーネルだったが、これは驚くような事でもない。前神官長は、俺を召喚するために命を断った。その後で召喚を取り仕切っていたのだから当然の流れか。
そして他の2庁の関係者は全員死んだ。彼らと彼らの家族もまた、俺を召喚するために命を絶った。
召喚者一人が来ただけで、あれを収められると思ったのだろうか? 俺じゃなきゃ無理だぞあんなの。
だけど、もうそれに
まあ、あの状態から逃げたかっただけかもしれないけどな。
だけど、どちらにしても俺が今ここにあるために、多くの命が失われた。
それに思い出した今なら分かる。これは間違いなくチャンスだ。
俺は間違いなく、もう一度歴史を修正する機会を得た。理由は……これから見つけて行こう。
「そ、それでクロノス様にも会見に出席していただきたいと」
「俺は部外者だろ? いない方がいいんじゃないのか?」
「それが使者の方々がぜひお会いしたいと」
やれやれ、今の俺はパンダみたいなものか。
仕方がない。精々見られて楽しませてやるか。減るもんでもないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます