第212話 この都市はもうダメなんだろうな

 日が昇り、破壊された首都ハスマタンの全容が見えてくる。

 敬一けいいちは壁を登った時の様に、咲江さきえちゃんを背負って高層ビルの屋上まで登っていた。

 高度は約4200メートル。敬一けいいちのスキルは肉体強化ではないが、それでもある程度の地上の動きは把握できる。そして町の破壊され具合も。


咲江さきえちゃんは少し休んでいてくれ」


「うん、ごめん」


 召喚者――それも咲江さきえちゃんくらい強化されていれば数日の徹夜など問題無い。だがスキルを行使しながらでは話が違う。しばらく休ませないと、早々に倒れてしまいそうだ。


 敵はやはり川のように幾筋もの流れを作りながら、あちこちに分散して襲撃を行っている。

 とはいえ、外とは違い中では結構ばらけている。群れからはぐれた奴が、ただ生き物を見つけては殺して回っている感じだ。

 このビルを登っている時に、ちいさな女の子と目があった。どう見ても民間人だ。ここに立て籠もっているのだろう。

 確かに、地上の建物よりは守りやすそうだが、2つの意味で長くはもたない。一つは怪物モンスターの襲撃から守り切れない。もう一つは、時間を置けばここが神罰で消滅するという事だ。


 ――やはり本体を見つけないといけないな。


 だけど分からない。何か法則性でもあればいいのだけど、何の情報もないのが痛い。

 他の都市へのトンネルに集中しているのは確かだ。本能なのか、あの先に人間が沢山いる事を知っているのかも分からない。

 だけどもしあそこに本体がいるのなら、分かりそうなものなんだよね。

 やはりどこかで命令しているのだろうか? だとしたら結構お手上げだぞ。この広い都市に無数の怪物モンスター、片っ端から倒そうにも、外からどんどん流れ込んでくる。


「そろそろ大丈夫、行こう」


「いや、まだ考えが纏まっていないんだ。咲江さきえちゃんはもう少し休んでいてくれ。いざ動き出したら、またしばらく休めないからね」


「うん……分かった」


 そう言うと、すぐに外套を纏って眠りに入る。プロの戦士の様だ。俺も負けてはいられないな。

 こういう時の為に、俺のスキルはあるような気がする。

 とにかく無駄を外す。必要なのは本体のみ。初心に帰れ、俺。

 あそこの群れはどうだろう? あっちは? そこは? 何処もピンと来ない。何処も行くだけ無駄なんだ。

 そうして都市全体を見渡していると、足がムズムズする。何処かは分からないけど、行きたい場所――いや、行くべき場所がある。

 全体を見渡しても分からないが、心のままに進むしかない。


「すぐで悪いけど、出発するよ」


「問題無いよ。分かったんだね」


「まだ確信は無いよ。だけど、行くべき道を体が理解したんだ」


「ならそこが正解だよ。他の誰が信じなくても、あたしは敬一けいいちを信じている。――なんて言葉はずるいね。みんな信じているよ。敬一けいいちなら、どんな不可能だって可能にするって。」


 そういって、ごく自然に背中に回る。


「今度は大人しくしていてくれよ」


「一度落ちればもう慣れたよ」


「では、行くか」


 そう言って、俺は咲江さきえちゃんを背負ってビルから飛び降りた。

 大丈夫と言ったが、目をつぶって全力でしがみ付いてくる。可愛いなぁ。

 等と油断していたら、着地位置をミスって民家の屋根を突き破った。痛い。


「随分荒っぽかったけど、大丈夫?」


「大丈夫だ、問題無い」


 余計な事を考えていましたとは言えないな。

 とにかく今は進むだけだ。だけど他人の運転だと指示をしきれない。というか、道の状況などスキルが配慮してくれるかどうか――しないな、うん。


「街を突っ切る事になるから車は無しだ。このままおんぶしていく」


 顔を真っ赤にして絶句しているのが分かる。だけどまあ、この可愛さが俺の力になる。心の中で俺は変態だなと自覚しながら、俺は道なき道を進み始めた。


 スキルが導く目的地は、彼らが守る別の町へのトンネルじゃない。それどころか、連中が集まっている場所でもない。

 だけど、この都市の中だ。もしかしたら、最初に予想した事が当たっていたのかもしれない。

 本体は賢く用心深い。そして何らかの手段で指示を出し、自分は集団からは離れている。

 だとしたら、それはそれでチャンスだ。

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