第200話 どっちにしろ拒否権は無いのだろう

 龍平りゅうへいの考えがまるで分らない。理解できない。

 とはいえ、このままではバッタリと出会って最悪の結果になるだけだ。


「そこで本題に入ろう。私はここに提案があって来たのだよ」


 木谷きたにの提案か。なんかものすごく色々と企んでいそうだが……。


成瀬敬一なるせけいいち。君にはこれからどちらか好きな方を選んでもらう。一つ、西山龍平にしやまりゅうへいの元へ行き、彼を倒す」


 いきなり最悪だなオイ。確かに説得なんて聞くわけがない。出会ったら戦う以外に選択肢はないだろう。だけど教官組の一人を倒したんだろ? それにその人、単純な戦闘力では玉子たまこって教官より強いとか言っていなかったか?

 その玉子たまこさん? ちゃん? まあその子が戦闘向きのスキルかは分からないが、少なくとも強さで語られて上の方にいる人間だ。以前本気の教官組にボロ負けした俺が戦って勝てるのか?

 うん、不安しかないな。つか絶望的じゃん。


「却下確定だ。もう一つの方を教えてくれ」


「このチームを3つに分ける。まず水城瑞樹みなしろみずきと逃がしたい人間は我々が保護する。世界で最も安全な場所、クロノスのところだ。だが雅臣まさおみはダメだ。理由はわかるな」


「僕はさすがにお尋ね者だからね。堂々と合流するわけにはいかないだろう」


 いやもうなんか嫌な予感しかしないんだが。


「君にはイェルクリオの首都であるハスマタンに行ってもらう」


 こいつは何処まで無茶な要求をするのだろう……。


「あの西山龍平にしやまりゅうへい雅臣まさおみを目標とするとは思えない。だが水城みなしろ君を追ってくれば、クロノスが確実に仕留めるだろう」


 それはそれで、なんか腹立つ。

 だが確かに背に腹は代えられない。どうせこれが終わったら、時計は回収される。抵抗は無駄だし、奪われるなら壊すなんて馬鹿な選択肢は俺には無い。

 先輩たちの安全を考えるなら、これが一番に思えるが、


「それでなんで俺がハスマタンに行かなきゃならないんだ?」


「すでにハスマタンは怪物モンスターによって滅びに瀕している。街は大混乱で、消え去るのも時間の問題だ。イェルクリオもこれで終わりという訳だよ」


「ハスマタンはイェルクリオの首都だと聞いているが、それ以外にも衛星都市があるんだろう? なら国は滅びないんじゃないのか?」


「全ての戦力はハスマタンに集められている。各都市に残るのは最低限の守備隊と、暴徒化した民衆を鎮圧するための警察隊程度だ」


 首都が陥落したらおしまいか。

 確かにその通りだ。この世界の都市は、何処も高い壁に囲われている。首都ともなれば、特に厳重だろう。

 そこに全戦力を投入して勝てないのなら、もうどんな抵抗も無駄だ。


「それに聞いていないのかね? 彼らは寄生して増殖するのだよ。手段は不明だがね。故に、何らかの形で安全が宣言されない限り、他の都市の人間はどうしようもない。いつ怪物モンスターに変貌するのか分からないのだからね。既に他の国を頼って逃げたものも多いが、殆どは道中で様々な怪物モンスターの餌食となるしかない。仮に他の国に辿り着いても、間違いなく受け入れられないだろう」


「酷い話だが、確かにそうなんだろう。で? 俺が行く理由は?」


「ギブアンドテイクの取引だと言っておこう。君の大切な人たちは、我々が命を賭して保護しよう。その代わり、君にも働いてもらうという事だよ。もし西山龍平りゅうへいの目標が君の場合、君を追ってハスマタンへと行くだろう。結果として、無数に襲ってくる怪物モンスターの相手をしてもらう訳だ」


「その時には、俺もその怪物モンスターの相手をする羽目になっていると思うのだが?」


「これは私の勘なのだがね、君は怪物モンスターを率いる本体を倒すべきだと思うし、それを望んでいるのではないかね?」


 ちょっとドキッとした。誰かが伝えたわけでは無いだろうし、今までの俺の言動や今の状況から予測したのだろう。だとしたら、俺の今後の予定とかも全部読まれている可能性がある。

 というか、マジで普通に全部予測されていたんじゃないのか?

 ここで木谷きたにに出会っていなかったら、そんな事も思いつかずに飛んで火にいる夏の虫になっていた可能性がある。

 ちょっと背筋が寒くなったな。


 だけど、その提案は魅力的ではある。

 正直に言えば、いざ奈々ななを奪還すると言ってもノープラン。

 しかも護衛次第では、戦いは避けられない。と言うか戦わないなんて無理だろ。

 これ以上評判を落とさないためにもいい加減不殺といきたいが、ただ逃げるだけならともかく目的を果たすなら不可能だ。

 しかも誰を連れて行く? つまりは、誰を危険に晒す?

 セポナと先輩は置いて行くとしても、ひたちさんや咲江さきえちゃんに協力を仰いでも良いのか? 敵はあの教官組かもしれないのに。そしてそうだった場合、俺は勝っても負けても彼女たちがいなければこの世界に存在できないだろう……。


「考えは纏まったかね?」


「ああ、提案に乗ろう」


 それしかない。と言うよりも、話を持ち掛けられた時点で他に選択肢が無かっただけだ。

 確かに、ここで龍平りゅうへいを迎撃する手段もあった。だけどそうするとは言えなかったんだ。何せその場合、どれほどの犠牲が出るか想像もつかなかったのだから。

 それに、他の人たちが彼等の元へ行くという事は先輩が奈々ななと出会う事になる。

 今は少しでも情報が欲しい。そう言った意味でも、悪くはないさ。

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