第199話 あいつは一体何を考えているんだ

 甚内じんないという教官が死んだ。人格者で、かなり慕われていたらしい。

 相談ごとにも乗っていたそうなので、多分頭も良かったのだろう。

 今のシステムについて、是非色々と聞いてみたかったが――、


「それで、まさか俺達にその報告をしに来たわけじゃないんだろう?」


 重要なのはそっちだ。

 まさか意味もなく教官組がこんな所に来たりはしない。

 大体、あまりにも自然に現れたから体が反応しなかったが、本来なら出会って即戦闘となる様な関係だぞ。


「報告に来たのは事実だ。それなりに、君らとも関わりのある男だったのでな」


 そう言ってサングラスをくいっと上げる。

 だからやめろそれ。攻撃の合図かと思ってやるたびに体が反応してしまう。


「だがそれよりも、問題があってな。甚内じんないを殺したのは西山龍平にしやまりゅうへいだ」


 ペタン――と先輩が崩れ落ちた気配を感じた。

 何かを言おうとしている様だが、声が出ない様だ。龍平りゅうへいと先輩との関係は知っているだろうに、本当にデリカシーの無い奴だよこいつは。


「君の目を見れば言いたい事はわかるがな。それどころでは無いのだよ」


「悪いが、今回はそちらに関わるつもりはない。何かさせようって話なら、事前に断らせてもらうぞ」


 まあ関わるつもりは無いってのは半分嘘だけどな。全部が終わったら、どさくさ紛れに奈々ななを奪還するつもりだし。


西山龍平にしやまりゅうへいは我々が出払った後、ロンダピアザの商人や有力者を多数殺害。その屋敷に火を放った。それだけではない、召喚者の宿舎にもな」


 先輩がガチガチと震えているのが分かる。

 もうこれ以上は――、


「そして甚内じんないの他にも、かつてのチームメンバーである安藤秀夫あんどうひでお中内要なかうちななめ神田川久美かんだがわひさみ他9人の召喚者を殺害した」


 先輩が、完全に硬直したのが背中越しに分かる。

 これ以上はダメだ。

 まだ何か言おうとする木谷きたにを制止すると、


「分かった分かった。話はあっちで聞く。それで良いだろう?」


「実際に用件があるのは君だけだ。だが他の者も完全に無縁とも言えないがね」


「とにかく俺が話を聞く」


 そういって、俺は木谷と共に茂みへと入った。

 まあ二人っきりじゃなく、雅臣まさおみさんや咲江さきえちゃん。それに菱沼ひしぬまさんや鷲津わしずさんも来ている。まあ仕方がない。

 ひたちさんとセポナは、何も言わなくても先輩についていてくれた。ありがたい事だ。





「それで、話ってのは何だ?」


「単刀直入に言おう。彼は何らかの形で君たちの位置を把握しているようだ。まあ多少の迷走はあるので、確実に正確かといえば違うようだがな」


「いやちょっと待て、要約すると……」


「ここに向かっている。目標が君なのか、それとも水城瑞樹みなしろみずきなのかわからないがね」


「それを早く言え!」


 どちらが目標なのか? それは俺にも判断が出来ない。俺への復讐なのか、それとも先輩を取り戻しに来たのか。そもそもどうやって俺達の位置を判別しているのかさえ分かれば、少しは予測も立てられるのだが。


「困っているようだね。困っているのだろう? んん?」


 嬉しそうだな木谷コイツ。まだサングラスを壊して放置したことを根に持っているのか。


「だが真面目な話、困っているのはこちらも同じだ。甚内じんないはもちろん、他にも召喚者を12人も殺された。これが意味する事を、今更解らないとは言うまい」


「新たに召喚をするって事か」


「そうだ。これはもう確定事項なのだよ。君の研究ごっこも、これまでという事になる」


 ごっこ遊びのつもりなんかじゃない! と言いたいところだが、実際に何の成果も出せなかった事は事実だ。それにしても、全部筒抜けって感じだな。

 迷宮ダンジョンで出会ったアルバトロスさんとの会話を思い出す。

 正直あれだけの事を言った手前、本当にどんな顔をして会えば良いのやら……。


「だがそれよりも先に片付けねばならない問題がある。西山龍平にしやまりゅうへいの事だ」


 まあ、確かに今はそうだ。

 正直に言えば、あいつが今やっている事がまるで解らない。

 何らかの手段でこちらに向かっている事は分かる。だけど、なぜそんなにも沢山の召喚者を殺した?

 そうしたら再召喚が必要になって、俺が時計を取り返されるからか? 嫌がらせ?

 いやいや、そういった面倒な手段を取る奴じゃない。

 大体、時期が悪い。今優先しているのはイェルクリオって国の問題で、召喚の話はその後だろう。

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