第165話 こいつは正真正銘の化け物だ

《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》


 巨大剣で貫かれそうに――じゃない、本当に貫かれえた瞬間、スキルが発動して難を逃れる事が出来た。

 しかし可愛い顔をしてとんでもない相手だ。しかもまだ2分程度だぞ? もつのか俺の体。そして意識。


「今、何か違った。これで3度目?」


 その言葉に寒気が走る。もう何かを感じ取ったのか!?

 確実に観察されている。武器と突進速度から、勝手に脳筋タイプと思い込んでいた。だが違う。時間を置けば、ますます不利になる一方だ。

 強くて可愛い女の子とかじゃない。目の前にいるのは怪物――いや、化け物なのだと実感する。

 ベッドの中で咲江さきえちゃんが言っていた。やり方次第で教官組に勝てると褒められて浮かれていた事もあったけど、俺と戦ってまだまだだと実感したと。

 その時は、いやいや、咲江さきえちゃんに勝てる人間などそうはいないよ……なんて笑って返した。


 だけど目の前にいるのは、正真正銘の化け物だ。相性云々の話じゃない。あなどって良い相手じゃなかった。しかもまだ一人だぞ!

 もはやなりふり構っていられる場合じゃない。ただ逃げる、それしかない。


「おい待て、フランソワ。殺す前に秘宝の在処を聞かなくて良いのか?」


 再び踏み込もうとしていた少女の動きがピタリと止まる。


幸次郎こうじろうが殺す、絶対に殺すとか言っていたから忘れてた」


「いや、俺のせいにするなよ。よく甚内じんないの事を馬鹿にしているが、お前も大概――」


 そう言った男の周囲を囲むように、多数の銀色の槍が地面に突き刺さる。

 俺に放ったジャベリンとは違う。まだ色々あるのか。まあさっきは斧も飛んで来たしな。

 アレが迷宮産の武器であることは間違いない。あの粛清部隊とやらと戦って、迷宮産の武器が発する何か――まあ魔力とでも言っておくか――それを感じられるようになった。

 なんてわかった所でどうにもならない。ただ絶望を積み重ねただけだ。


「一応警告しておく。秘宝を返して死んで」


「それは警告とかなんとか以前に突っ込むのも面倒だ」


 足元の地面を外す。もうこの際、何処までもだ。


「逃がすと思っているの?」


「いや、俺が行く。単純な追いかけっこは、お前には分が悪そうだ。様子は送る。そちらはそこから援護をしてくれ」


 上からそんな会話が微かに聞こえてくる。

 嫌すぎるけど、二人同時に相手にしなくてもよくなったと考えればいい事か?

 そんな訳が無いだろう。彼女の援護とは、武器による遠隔攻撃と爆弾だ。どっちも嫌すぎる!

 大体、大変動の原因にもなっているという未知のエネルギー。あれのせいで爆弾みたいな火薬の開発に成功した奴なんてそうはいないって――ってそれが目の前にいたんだよ!





 ◇     ※     ◇





広域探査エリアサーチに何かかかったか?」


「ううん、何も……ごめんなさい」


 元神官長が捉えられていた高層ビルの前に、龍平りゅうへいたちのチームが揃っていた。

 他にもちらほらと召喚者の気配を感じる。連中も敬一けいいちを探しているのだろう。

 なにせ、奴の奪った秘宝は最上級。もし持ち帰ったら再び帰還が出来るうえ、最高の力を得て元の世界に戻れると連絡があった。当然、狙わない手はない。考える事は、皆同じだ。

 当然持ってなどいないだろうが、吐かせる手段など幾らでもある。

 召喚者に精神系のスキルが効かなくとも、他は何でも有効なのだ。


 本当は瑞樹みずき敬一けいいちが出会う可能性を排除しておきたかった。

 だが現実は負けた。今の俺では、おそらくもう一度やっても同じ結果になるだろう。

 ならやるべきことは一つ。


「なぜあの怪物モンスター敬一けいいちの姿をしているのかは分からない。だがアイツを最もよく知っている彼女の広域探査スキルで探知できない以上、あれは間違いなく偽物だ。そして、恐ろしいほどの強敵でもある」


 既に火柱の上がった穴の周辺には、他にも多数の召喚者が様子を伺っていた。

 誰もがわれ先にと飛び込む愚を犯したくなかったからだ。

 結果として、彼らは龍平りゅうへいの話を聞くことになった。


「絶対に一人では当たるな! 違和感があったら、すぐに仲間と合流しろ! すでに教官組が向かったという情報もある。何かあったら教官組との連絡を優先だ。死んだらもう終わりだという事を、いま改めて思い出せ! では行こう! 決着をつけるために!」


 龍平りゅへいの話しと同時に、召喚者のグループが次々と敬一けいいちが明けた穴へと飛び込んでいく。

 同時に、飛び込めない者の為の縄梯子も準備中だ。


「俺は先行する。須田すだ。付いて来てくれるか?」


「当然でしょ。これ以上先輩を苦しめる怪物モンスターなんて、絶対に放置なんかできない」


「ありがとう。助かる」


「なら俺も行こう。須田すだ、頼めるか?」


「一人くらいなら大丈夫だよ」


「なら瑞樹みずき岸根きしね先輩、神田川かんだがわさんは後から合流でいいな?」


 それで決まると思われたが――、


「うーん、ゲン担ぎするわけじゃないけど、龍平りゅうへい君が3人で行動すると必ず失敗しているのよね。2度ある事は3度あるともいうし。だから今度はあたしも行くわ」


 そういったのは神田川久美かんだがわひさみだった。

 元々ベテランとして加わった4人の一人。紅一点だ。

 歳は二十歳で、元々はアルバイトをしながら実家で暮らしていると聞いていた。

 だが、向こうでの姿はそれ以上の事は知らないし興味もない。


「分かったが、どうやって行く? 縄梯子が用意できるのはまだ先になるぞ」


龍平りゅうへい君が抱っこして降りてよ。それなら大丈夫でしょう?」


「……分かった。じゃあ行こう。二人は他の連中とはぐれないようにな。危険があったらすぐに戻れよ」


「う、うん。分かった……」


「大丈夫。怖いのは超嫌いだから。少しでも危険があったら瑞樹みずきを連れて即逃げするよ。でも後になって見捨てたとか愚痴るなよ」


「しないさ。じゃあ――また後でな」

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