第164話 分が悪いどころの話じゃない
教官組クラスが二人。だけど戦う以外に道は無い。
いや、実際には逃げるんだけどね。ただくるりと振り返って逃げたとしても、素直に逃がしはしないだろう。
ならもうやる事はただ一つ。戦って勝つ、それだけだ!
先ずは不意の一撃に備えるために体を外しておくとして――、
そうした瞬間には、小柄な少女が俺の前まで来ていた。いや、それだけじゃない。
目の前にいる事を認識した時、俺は肩から足まで縦に、そして胴を横一文字に、実に綺麗に斬り裂かれていた。
ほんの一瞬で、目にも止まらぬ速さ。強化系? そう考えてゾッとした。彼女の黒い瞳。そこには何も浮かんではいない。彼女はまだ、スキルを使っていないのだ。
――もう一瞬の
覚悟を決めて本体で出る。偽の体が消えた事で少しは隙を作れるはずだ。というより今まではそうしてきた。
前に突進する形で2本の剣を突き刺す――はずだった。
距離は30センチも無い。必殺だったはずだ。だが俺の両腕は、振り上げた二本の巨大剣によって完全に断ち切られた。
此処で更に、彼女の目に紋章が宿る。いやもう止めて欲しい。
だがそんな願いも空しく、何の予兆も無く、空間から赤と銀の斑模様をした禍々しいジャベリンが飛び出してくる。
あまりの速さに避けようが無い。両腕も無いしな。
ジャベリンは俺の右胸、腹、右太腿を易々と貫いた。
だがこっちの体は本物だ。痛い、死ぬほど痛い。というより致命傷だ。だけど死なない。ならば、俺の勝ちだ!
刺さった部分の肉体を外す。改めて思うが、外した部分は消え、新たな部位がやってくる。偽物の体と同じ物。改めて考えてみれば、俺の本来の体は、いったいどの位が残っているのだろう。
などと考える余裕は欠片も無かった。
確かに外した部分は空間ごと消滅したように消滅し、分断されたジャベリンは鈍い金属音と共に地面に落ちた。
だけどそれだけ。本当に、ただ落ちただけ。彼女には何の影響もない。
それどころか、ぶんぶんと嫌な音を立てて横から何かが迫ってくる。それは回転しながら飛んで来る大斧! あんなもの、受けてから外すとか冗談じゃないぞ。
危険は今更。
我ながら、自分のこんな姿を見るのは精神的にきつい。
だがそれ以上に、偽の体と入れ替えるのは別の意味でキツイ。何せ一瞬とはいえ、その間に本物の俺は別の空間に移動しているのだ。此処ではない、何処でもない場所に。
スキルの負担は、飛び道具を外すのとは比較にもならない。
というか、今ので大体分かった。こいつは
だけど村の
射程は――いや、もしひたちさんと会って間もない頃にあの爆発人形を送って来たのが彼女だとしたら、相当な距離だ。キロメートル単位だろう。
しかしこれは厄介だ。再び飛んできたジャベリンをスキルで外す。だが相手は迷宮産の武器。しかも懲罰部隊が使うものとは威力が違う。完全に外すどころか、僅かに逸らすだけで精いっぱいだ。
その度に、腕が、肩が、足が――肉が次々と
だけど武器を壊しても、どうにもならない。スキル自体はアイテムを何処からか持って来て飛ばすだけ。あれではカウンターでダメージを与えることは出来ない。それに――、
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
やっぱりこうなった!
確かに自動で発動してくれるのはありがたいよ。だけど負担は自分でやるより遥かに大きい。
だけど今は違う。一方的に
だけど違う。あいつは負ける気は無いが、それでも相手に合わせる性格だった。強敵には強敵に対して、子供には子供に対しての戦いをするタイプだ。だから付け入るスキがあった。
だけど今、目の前で暴れている少女は暴力の化身。いや、ただの暴力だ。
俺の首が宙に舞う。
同時に聞こえるアナウンス。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
逃げるように飛び出た本物の体が、あの巨大剣で貫かれる幻覚が見えた。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
幻覚でも何でもなかったですね、ハイ、分かっています。スキルが勝手に発動していなければ、あれは間違いなく現実の姿だ。
「思ったよりもしぶとい。さすがに
お褒め頂きありがたいけど、多分まだ2分も戦っていないぞ。
つまりは、今まで彼女と2分間戦えた人間は滅多にいなかったって事か。
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