第146話 お前が6人の中に含まれていたなんて最初から分かっていたさ

 ――やはり使い物にはならなかったか。


 疾走しながら、龍平りゅうへいはそんな事を考えていた。

 召喚された日、俺達の為に歓迎パーティーが開かれた時の事だ。

 教官組と呼ばれる人たちの挨拶が終わった後は、雑談をしながらチーム分けが行われた。

 俺達は普通に杉駒東高校のメンバーで組んだ。男は俺と安藤あんどう入山入山、女は瑞樹みずき須田すだ岸根きしね。丁度男女3人ずつ。


 だけど、これだけでは右も左も分からない。ただの素人集団だ。

 失敗したら帰るだけといっても、やるからには成功しなければ意味はないのだ。


 だが、ただの新人だけで迷宮ダンジョンに行かせるほど、俺達の価値は安くない様だった。

 召喚すれば幾らでも補充出来るのではと思ったが、それなりの期間が必要らしい。そう言った意味では、敬一けいいちの引きの悪さは俺達だけではなく、この世界にも迷惑だったという事だ。今更だけどな……と、その時は思っていた。


 まあそんな訳で、会場には先輩召喚者達も何人か来ていた。

 少数の補充要員を探す者や、逆に数が減り過ぎてグループに入りたい者。まあ事情は様々だ。

 そんな中、俺達は4人のグループに出会った。

 男が3人、女が一人。男の一人は俺達と同じ高校生だったが、他は大学生とフリーターで二十を超えていた。

 ここに来て、もう1年を過ぎているベテランだ。話によると、今まで組んでいた仲間たちはもう財宝を供出して帰還したそうだ。

 だが全員分には足りなかったため、4人は残ったという。その話から、俺はこいつらの人となりを信じてしまった。仲間を先に帰還させ、自分たちは残る。なかなか出来る事では無いと。

 こうして、ベテラン4人に加え、俺や瑞樹みずきの杉駒東組6人を加えた10人で迷宮ダンジョンに潜る事となった。

 本来なら、最初は教官組と行くらしい。だけど俺達はベテランと組んだこともあって、3日程度で支度を済ませ、そのまま迷宮ダンジョンに向かった。俺達自身は何も知らない無知のまま……。


 敬一けいいちならどうしただろうか? 用意周到かつ慎重なあいつの事だ。おそらく1か月は掛けて迷宮ダンジョンに関して詳しく調べ上げただろう。

 それだけじゃないな――おそらく過去に持ち込まれた財宝やその価値、そしてなにより、同行者の素性を入念に調査しただろう。

 その上で初めて動く。慎重な男だ。慎重すぎて、機を失う男だ。だが同時に、大きな失敗をしない男でもある。


 この世界に召喚されて、必要だったのはどちらの判断だったのか。

 いうまでもない……結果が示している。





 ▽     〇     ▽





 弾丸よりも早く、重く、一撃必殺の右ストレート。以前の俺だったら、もうここで終わっていただろう。

 だけど、俺もアレから随分成長したよ。主に咲江さきえちゃんに散々殺された結果だがな。それと助けた時もか。考えてみれば、俺が大きく成長する時には、いつも彼女が関わっているな。


 即死級の攻撃から自分を外す。セポナを助けた時と似たようなものだ。まるで反発しあう磁石の様に、俺は龍平りゅうへいの攻撃を回避した。まあ傍目にはそう映るが、実際には俺が一方的に弾かれただけというが。

 それに相手は召喚者。完璧とはいかず、頬の皮を肉の一部ごとざっくりと持っていかれた。

 痛みは外した。だがズキンズキンと不快な感覚だけが伝わってくる。


「相変わらずいきなりだな。一言くらいあっても良さそうなものだが」


「不要だろう。自分の立場はわかっているはずだ」


「そうだな。抹殺命令が出ているとか、お前がラーセットの犬になった件とかは聞いたよ」


「なら問答は無用だ。お前にはここで死んでもらう。亡霊にいつまでもうろつかれたんじゃ迷惑なんだよ!」


 亡霊か……だけど、本当にそう思っているわけじゃない事は分かる。

 こいつはちゃんと、俺を俺として認識した上で――そして今の状況を理解した上で俺を殺そうとしている。

 理由は一つだけ。消したい過去を消せないから、俺を消してしまいたいのだ。

 長い付き合いとは言えないが、その程度の事は分かる。


「その理由は聞くまでもないな。自分が瑞樹みずき先輩を犯した事を隠したいからか」


「だまれー!」


 目にも止まらない一撃。腹に右ストレートをくらい、背後にあった木に叩きつけられる。

 軽い攻撃なら瞬間移動の様に避けられるのに、やっぱり駄目だな。今ので内蔵の殆どが潰れた。尻から大量出血したのが分かる。中身が出なかったのは幸いだ。

 壊れた内臓を全部この世界から外す。龍平りゅうへいはというと、俺が生きていることに驚いている様だ。いや、動揺と言っていいか。これは今ので死ななかったからじゃない。その前の事を知っていたからだろう。


 俺は出発前に、龍平りゅうへいのチームメンバーを聞いた。死んだという2人も含めて、どういったメンツで行動していたのかを。

 結果は男が6人、女が4人。もう後は、聞かなくても分かるさ。

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