第145話 前座はもう終わりでいだろう

 召喚者2人と迷宮産の強力な武具アイテムを保有した現地人の粛清部隊。こいつはなかなか厄介だ。

 つか、結構外にも召喚者が配置されているのな。今は稼ぎ時で全員潜っていると思っていただけにちょっと誤算だ。


 火球を使った方は分からないが、状況的に派手派手しい鎧を着たガキっぽい顔つきの方か。

 この世界での実戦経験が少ないのだろうか? よく見ればちょっと幼い感じがする咲江さきえちゃんと違って、本当に歳相応って感じだ。

 いや待て、こいつ見た覚えがあるな。確か召喚された日に一緒にいた。確か2年生だったはずだ。

 あれからもう1年近くになろうというのに、この緊張感のなさは何だ?

 本当に迷宮ダンジョンに潜っているのかと疑いたくなる。


 もう一人はいかにも下種って顔をして下種な台詞セリフを吐いた男。恥ずかしくもなくよくあんなことが言える。間違いなく中身も下種だろう。

 蝙蝠の羽を思わせるようなつやつやの黒いシャツに同じようなズボン。俺なら恥ずかしくてあんな格好は出来ない。武器はなかなかに大型の槍斧ハルバードだ。

 獲物に対して服が貧弱に見えるが、まあ関係ないな。薄着云々を言ったら、ブラが透けて見える咲江さきえちゃんのシャツとかどうなるって話だ。


 それより気になるのは“スキルなし”って言葉の方か。俺のスキルはまだ無いって事になっているのか?

 いやいや、それはおかしいだろう。まさか今まで俺がやった事は全部アイテムによるものって事になっているのか? そりゃないだろう。大体木谷きたにが伝えてないのか?


 ……まさか帰る事が出来ずに死んだのだろうか?

 特に罪悪感は無いが、どちらかといえば意外だ。絶対に死なないタイプだと思っていたからな。

 もし墓とかあったら、墓参りくらいはしてやろう。


「女の方は俺に任せな! 手足を斬り落としてからたっぷり楽しんでやるぜ! 安心しな。立場を理解したら、また繋いでやるよ」


 また悪趣味な奴だな。だけど武器は近接武器だ。咲江さきえちゃんなら何とかなるだろうけど、どんな道具アイテムを持っているのかは分からない。

 火球使いにも注意して、粛清部隊の飛び道具にも注意。やる事があり過ぎて大変だが、それだけ余裕が出て来たって事か。

 というかこいつらって……。


 考えるまでも無く、下種な男は白目を剥いて倒れていた。確認するまでもない――即死だ。

 まあ、ですよねーとしか思えない。あの様子だと、彼女のスキルを知らなかったんだな。


「抵抗したな! この人殺しども! ○○■※ ▽ ■※※! 絶対に殺してやる!」


 お仲間の行為はOKなのかね。

 まあ、こういう奴は自己中と相場が決まっている。あの下種の仲間だしな。

 でもアレだな。その前に確認しておかなくちゃいけない事があったんだ。


 移動の手間を省き、童顔の――一応は先輩の胸ぐらを掴む。


「この距離でも火のスキルは使えますか、先輩」


「なめるな!」


 全身に炎が走る。まるで火で出来た蛇だ。

 熱い熱い熱い! こんな事が出来るとは予想外だった。だけど死なば諸共ってわけでは無いが、これは熱いだけだ。

 容赦なくスキルで外す。炎を破壊すると言った方が良いか。炎の蛇それが霧散すると同時に、まるで弾け飛ぶように炎使いの先輩は地面を転がった。

 今までのパターンだと、そんな衝撃は無いはずだが……まあ多分だけど、痛みを感じて自分から飛んだってところか。場慣れしているようには見えなかったが、凄い生存本能だ。

 取り敢えず、死なないでくれて良かったよ。


「お前の名前は安藤秀夫あんどうひでおだな」


 地面に転がったまま、驚愕の目で俺を見ている。はいそうですと言っているようなものだ。

 なら、あっちで死んでいるのは中内要なかうちななめ金城浩文かねしろひろふみ。多分後者だろう。


「いい加減に出て来いよ、龍平りゅうへい


「そうだ、助けてくれ龍平りゅうへい! ☆□ 〇◎△◆ ※□◎!」


 一斉に襲い来る現地人の粛清部隊。その背後から超高速で迫る殺気を感じる。

 ようやく来たか……待っていたよ。

 なぜ待っていたのだろう。戦う為――他に何があるというのか。俺は龍平りゅうへいと戦いたかった? なぜ?

 高層ビルの事? 瑞樹みずき先輩の過去の事? そしてこれからの事?

 まあ色々あるが答えは単純だ。俺が会いたかった。そして決着を付けたかった――語り合いたいなんて生易しい段階は、もうとうに過ぎ去っていた。ただそれだけの事だ。

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