第147話 死なないはずの男

 俺――西山龍平にしやまりゅへいが所属するチームは、全部で10人となった。

 水城瑞樹みなしろみずき。彼女は妹の奈々ななと同じチームには入れなかったので、自然と俺と同じチームになった。

 そして同じ日に召喚された同じ高校メンバーである安藤秀夫あんどうひでお入山雄哉いりやまゆうや須田亜美すだあみ岸根百合きしねゆりの4人を含めた6人。


 更に俺達を誘ったリーダーの吉川昇きっかわのぼる、それに一緒のチームに居た金城浩文かねしろひろふみ中内要なかうちななめ神田川久美かんだがわひさみの4人の先輩召喚者。

 奈々ななは別口。俺たち以外の同じ日に召喚された3人は、教官組と簡単な迷宮ダンジョン教練を受けるらしい。実に暢気な事だ。

 その間に俺達は一歩先に進む。まあ人類が探索している迷宮など、全体の1パーセントにも満たないという。宝は山ほどあるし、競争しているわけでもない。だが他者より先に進むというのは、それだけで十分な価値があるのだ。

 そんな事を、自信満々に考えていた。もし時を戻せるのなら、全員殺してやりたい。

 もちろん――俺も含めて。





 〇     ●     〇





 再び雨が降って来る。ぽつぽつとではなく、いきなり滝の様に。まだまだ天気は不安定な様だ。

 咲江さきえちゃんは現地人の粛清部隊と戦っている。いや、あれは戦いなのか?

 周りに転がる死体……死体……死体……。もう誰も彼女に近づこうとすらしない。

 ご立派な鎧を着た先輩は、コケたまま逃げるように後退あとずさっている。まあアレのスキルのタイプはもう分かった。火系のスキルは、大気成分を操る咲江さきえちゃんには通じないだろう。


 それよりも龍平りゅうへいだな。

 先ほど思いっ切りぶん殴られたが少し返してやったからな。相当に驚いているだろう。

 とはいえスキルで強化されただけでスキルその物じゃない。大した痛みは返らなかったようなので少し癪だ。こっちは死ぬほど痛かったんだがな。


「やってくれるじゃないか。それがお前のスキルって訳か。聞くと見るとじゃまるで違うな。どうしてあの時使わなかった」


 塔での話なのは言うまでも無いな。他で戦った覚えなど無いし。

 まあ、あの時は俺の本体はとっくに逃げていた。戦う気がそもそもなかったしな。

 だからあの時龍平りゅうへいが倒した俺は、残念ながら偽物だ。説明してやる気はないがね。


「お、おい、どういう事なんだ! そいつはスキル無しじゃなかったんだろ! スキルって何だよ!」


「事情は後で説明する。それより金城かねしろ、いつまで寝ているんだ!」


 ん? あいつのスキルは分からなかったが蘇生系か?

 しかし死ぬと帰るって設定の世界で自己蘇生とかどうなんだろう?

 なんて思ったが、動き出す様子はない。うん、普通に死んだままだな。

 というよりも龍平りゅうへいに動揺が見える。人間性はアレだったが、力に関してはかなりの信頼を置いていたのだろう。


「どういう事だ、安藤あんどう


「お、俺だって知らないよ! 何があったんだよ! 教えてくれよ!」





 ▼     △     ▼





 龍平りゅうへいにとっては大誤算だった。

 金城かねしろのスキルは自動道具使用オートアイテムだ。

 この世界には斬り落とされた手足でも、あるいは潰された内臓であっても、それこそどんな損傷でも治すアイテムがある。慎重に扱わねば危険ではあるが、命には代えられない。

 その中でも特級に認定されるような治療薬は、どんな怪我でも瞬間的に治癒できる。

 残念ながら自分達はまだ手に入れていないが、こいつは”特殊な事情”で持っていたはずだ。

 しかもこのスキルはその名の通り、本人の意図に関わらず発動する。当然不意打ちも意味が無い。

 だからこいつはどんな攻撃を受けても死ぬ事が無い。事実上の不死身と言って良い、

 実際にこいつをどう殺そうか……それが悩みの種だった。

 だが現実は見ての通り、どう見ても死んでいる。理由を知りたいのはこっちだ。


 それに敬一けいいちを殴った時に全身の肉が千切られるような衝撃が走った。

 咄嗟とっさに手を止めてしまったが、それはどちらにとって良かったのか。

 何も判らない。予想すべき材料すらない。だが――、


「覚悟を決めろ、安藤あんどう。ここでこいつらを逃がしましたとなれば、俺達の立場はどうなる。評議会だけじゃない、軍隊や他の召喚者たちに対しての立場も無くなる。ここで決着をつけるしかないんだ!」


 だが、そんな言葉を安藤あんどうは聞いてなどいなかった。

 バケツをひっくり返した土砂降りの中、もう小さくなっていく安藤あんどうの背中が見える。

 所詮は……。


 いや――首を振り、怒りや未練を振り払う。

 アイツは仲間でも何でもない。確かに僅かの期間だけ仲間だった。だけどあの日、それは脆くも崩れ去った。

 それ以来敵だった。殺すタイミングを計っていたのは俺だ。今更逃げた所で、責める資格はない。

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