第135話 粛清部隊とは物騒だな

「ここは俺たちのテントだ。大丈夫、ここなら敵はいない」


「ハート……?」


 ん? 何の事だろうと思ったら、テントの上にハートマークがついている。やーめーてー!


「き、気にしないでくれ。とにかく重傷だったからしばらくは安静にしてくれ。何か欲しいものがあれば遠慮せずにな。俺は横で休んでいるから」


 そういったのは良いものの、テントの下は剥き出しの土。しかも雨水でぬかるんでいる。

 まあ即興で作ったって言っていたしベッドもあるしな。床で休むことなど考えていなかったのだろう。

 さてどうするか。ここには床に敷くものなんて何もない。さすがに泥の上に座ったまま寝たら、明日の朝には体調不良でダウン確定だ。病気を外せればいいんだけどな……。

 そんな事を考えていると、袖を掴まれた。


「いいから……下、酷い泥だし。横で寝て良いわよ」


 耳まで真っ赤になって、絞り出すような声でそう言った。

 治療の為に、彼女の服装は黒い下着の上下だけ。それに薄い純白のシーツが1枚だ。

 もうこれだけでも堪らないのに、恥ずかしそうな咲江さきえちゃんが妙にいとおしくて、俺は素直にお言葉に甘える事にした。


「ねえ、私を攻撃した連中だけど……」


「残念ながら正体は不明だよ。聞き出せればよかったんだけどな」


 聞く前に全員ほふってしまった事はこの際内緒。


「あれは粛清部隊よ」


「何か知っているのか?」


「この国の人間と召喚者って、仲のいい人もいるけど全員がそうじゃないのよ。そんな人たちが、召喚者に対抗して作った実働部隊が粛清部隊。私たち召喚者が迷宮ダンジョンで集めたアイテムを装備した精鋭部隊ね。今は迷宮ダンジョン内じゃなくて外に配備されているのよ」


 なるほど。現地人にしては強く、そのくせ弱い。高価で貴重なアイテムを使うのだから精鋭ではあるのだろうが、召喚者の前ではさほど相手にもならなかった……なんて言っても、実際咲江さきえちゃんはやられたし、スキルが無ければ俺も勝てたかどうかは分からない。

 まあ特殊部隊だって事は予想はしていたが、なぜあんなところで遭遇していたのかはまるで理解できないわけで……。


「目的はやはり俺か?」


「多分偶然。いるとしたら迷宮ダンジョンだろうってみんな言っていたもの。ましてや自分から、それも外から来るなんて思ってもみなかったわ。彼らの任務は、都市の近くに迷宮ダンジョンの入り口が無いかの確認と、モンスターの見回り。それに他国の斥候がいないかとかの確認もやっているわ」


「まあそう思ったから裏をかいたつもりだったんだけどな。こんなに早く見つかるとは思わなかったよ」


 一応、ここに来るまでの全ての痕跡は外してきた。もし追跡していたら、逆に見当違いの方向に誘導されている頃だ。

 まあ、しばらくは安全だろう。ひたちさんが配置した感知器センサーもあるしな。

 とはいえ、今の話だとこの子は完全に巻き込まれた事になる。雨で見分けがつかなかったのか、それとも俺の仲間だと思われたのか。どちらにせよ、最初から最後まで全部俺のせいじゃないか。


「それにしても粛清部隊とは物騒な名前だ。誰を粛清するんだ?」


「本当は迷宮ダンジョン探索特殊精鋭部隊って名前だったらしいけど、ほら、アイテムってやっぱり貴重でしょ。しかも嫌っている召喚者の回収したアイテムを使っている上に、迷宮ダンジョンでモンスターに負けて無くしたから回収してくださいなんて頭を下げるのはプライドが許さない。だから部隊を編成したはいいけど、なかなか迷宮ダンジョンには派遣できなくて、結局は特殊警察みたいな組織になったのよ。それで付いた名前が粛清部隊」


「そんな名前になるって事は、不平不満を持っているやつが多いって事か」


「ご名答。結構貧富の差は激しい国だしね。特にラーセットは迷宮から莫大な富を得ているから、恩恵に預かった人とそうでない人の格差が激しいのよ」


 なるほど……そういった経済格差に負けて、セポナは奴隷に出されたわけか。

 かなりしっかりとした教育社会に福祉。その辺りは俺達の世界より手厚いとひたちさんは言っていた。それと奴隷とがどうにも結びつかなかったが……そう言う事か。


「それで咲江さきえちゃんはどうして外にいたんだ? 今はラーセットは大変動後の探索で、召喚者を遊ばせておく余裕なんてないはずだと思ったけどな」


「私は……ソロだから。迷宮ダンジョンより都市や郊外の任務が多いかな。当然だけど、提出のノルマからは外されているの。私と組む人はいないし、組もうなんて人もいないし……」


 人は誰でも話したくはない事がある。これは聞くべきではないだろう。


「まだ怪我人なのに、色々話させて悪かった。まあ今は安全だ。ゆっくり休んでくれ」


「……このままじゃ、休めない」


 顔を真っ赤にしながらも、真剣にこちらを見つめている。互いに横になって見つめ合っている状況は、色々とヤバいのではないだろうか?

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