第134話 とんでもないものを用意していたものだ
――これは一体、何の冗談なんだ?
いや確かにしたのだが、そこは俺の予想とは大きく違っていたんだ。
そこにあったのは少し大きめな三角テント。
色はピンクで、周りにはクッションの様に膨らんだ小さなハートが囲むようについている。
いや、でも場所はここだ。頭を振って疑念を振りほどきながら急いで入る。
「
「あ、ああ」
中にあるのは丸いベッド。真っ赤なベルバットのシーツの上には大きなハート形のクッションがある。
い、いや、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
「この子が大変な状態なんだ。何とかならないか?」
「治療の支度は出来ていますが、それよりもその状態は!」
まあ、俺の状態だろう。気にしないようにしていたが、酷い状況なのは自分でも分かるよ、うん。一時的にとはいえ心臓が止まっていた訳だしね。
「とにかく治療が優先だ。ひたちさん、頼む」
ちょっと抵抗があったが他に場所はない。怪しげなベッドに
「畏まりました。それではセポナ様、
「まかせて! ほら、早くこっちへ」
「あ、ああ」
まあこっちと言っても同じテント。向こうはこれから命をかけた必死の治療が始まるわけだが、こっちはこっちで別な事。でも一応、命みたいなものが掛かっているのは変わらない。
セポナがガバッと服を脱ぐと、テキパキと俺の服も脱がせる。
うん、実に鮮やかな手並だ。
「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんから聞いたけど、じっくりゆっくりするよりも数をこなす方が好きなんでしょ。もう、若いんだから。さあ、始めましょう」
アイツなんて事を吹き込んでやがった!
今度会ったら、その点に関してじっくり話し合わなければいけないかもしれない。
真面目な治療とある意味不謹慎な治療が終わったのは、それから数時間経っての事だった。
もう時間はすっかり夜だ。だけど未だに雨は止まず、ここからでも激しい雨音が聞こえてくる。
一方で俺は、途中参加したひたちさんのテクニックもあって何とか峠を越したところだった。
「彼女はもう大丈夫なのか?」
「ええ。治療用の道具も緊急で送って頂いておりましたので。それよりも
「本当に。もしあのまま消えちゃったらどうするつもりだったの? 私たちを置いていくつもりだったの?」
平静に見えて怒り心頭なひたちさんと、ものすごく心配しているセポナ。
いや実際にやばかったのは事実だから、謝る事しか出来ない。
でも俺自身は、彼女たちほど心配はしていなかった。だって、今の俺には彼女たちとの大切な絆がある。俺がそれを認識できる限り、俺はこの世界に在り続けるさ。
「ところで、このテントは何?」
改めて見渡すと、もう何とも形容しがたい。いや一言で言ってしまえばラブホテルなんだろうが、俺はそんな所に入ったことは無いからな。いやマジで。そんな金なかったし、
「その場でする事に抵抗がありそうでしたので、こうしてそれにふさわしい場を用意いたしました。別の形で使用したのは残念ですが、完全に無駄にならなくて良かったです」
当然、こんな大荷物は持ち歩いてはいない。これは俺が
送ってくれたのはアイテムテレポーターの
何となくダークネスさんと双子が思い浮かんだが……やめておこう。
というか、あの子の性格からしてこんな怪しい場所に連れ込んた時点でアウト。間違いなく戦闘再開だ。
でもあの大雨の中、治療するにはこういった場所が必要になるわけで……本当に、幸か不幸かという言葉が浮かぶ。これも俺のスキルが何か関与したのだろうか?
そういやなんかいつもと違うアナウンスがあったような気がする。
でも確かアイテムがどうのとか言っていたな。無い以上は仕方がない。とりあえず、スキルの先輩であるひたちさんに相談してみよう。
そう思った時――、
「う、ううん……」
寝ていた
「それでは、後はお任せしますね。頑張ってください」
「もう疲れたから寝るね。おやすみー」
そんな中、二人は素早くテントの外へと出て行った。
いやまあ、ここが俺が彼女とアレする用なら二人の方は別に用意してあるんだろうけどさ……大丈夫か俺? いきなり殺されたりしない? 本体、外しておこうかな……。
「こ、ここは……」
そんな事を考えている内に、彼女は完全に目覚めてしまった。
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