第133話 やっぱり迷宮産の武器は強力だな
一足飛びに距離を詰め、
頑丈そうな革鎧のせいで分からなかったが、多分女性だ。だがそれがどうした。
近くにいたもう一人も同様。女性だったが、手加減をするつもりはない。心臓を勇者の剣で一突きすると、実にあっけなく崩れ落ちる。
――おかしい。弱い!?
「○○■※ ▽ ■※※! ★★□☆ ◇◇ ○!」
何か叫びながら、武器を構えた男たちが迫って来る。
大斧、刀、槍。装備はまちまちだが、どれも人の手によるものとは思えない美しい細工が施され、刃も普通の金属の質感とは到底思えない。
なるほど、やっぱり体力がある奴が近接戦をやるんだな。分かりやすい。
というより、弱いのはおかしくもなんともない。こいつら武器こそ迷宮産の強力なアイテムだが、中身は全員現地人。普通の人間だ。
そいつらを無視して、移動の手間を外す。
目標は、後ろにいた女性。まだ少女と呼んで良いようなあどけなさ。だけど手に持ったヤギの頭部の様な奇妙な道具からは、どんどん力が強まってくる感覚がある。
罪悪感は無かった。最初の戦が始まった時、もうそんな感情は外したあったのだから。
持っていたヤギの頭ごと縦に裂けた少女を見て、周りの連中が叫びながら再び襲い掛かって来る。言葉はわからないが、悲壮、怒り、そんな感情が表情から読み取れる。大事な人間だったのだろう。なら連れてくるなよ。こんな雨の中、ご苦労な事だな。
罪悪感を外していた俺には、そんな感想しかなかった。
だけど心に何かが刺さる。全身に鳥肌が立っている。不快でしょうがない。
だが多分、彼女はこの中で重要な役割を担っていた様子だった。これで少しは戦いも楽になるだろう……ただ機械のように冷静に、そんな事を考えていた。
▽ ▲ ▽
「さて困ったな」
数人は生かして情報を聞き出すつもりだった。
いや実際にそれだけの力量差はあったんだ。確かにこの連中は強かった。だけどそれは、本人がではなかったからな。
それはかつて、
スキルの有無以前に、力も反応も召喚者とは段違い。人間とはこうも脆かったのだと、改めて思う。
それは同時に、召喚者がどんどん人間離れしていくという事でもあるわけだが。
ただそんな訳で、全員やってしまった。
だけど弱い者いじめや虐殺したといった感覚がない。そういった心を外していた以上に、彼らの使っている武器があまりにも凶悪だったからだ。
とても捕縛する余裕はなかった――いや、もしかしたら人としての心を外し過ぎていたからかもしれない。
だけどまぁ、そんな反省は後でいい。今は――、
「どう見ても普通の武器じゃないな」
改めて手にするが、やはり普通の道具といった感覚がない。何か違う……奇妙な力を感じる。それは勇者の剣やダークネスさんの小剣、それに俺が今身に付けている鎧のような感覚。つまりは、迷宮産――それも特別なやつだ。
幾ら冒険者が一生懸命掘り返してくるとはいえ、一般の兵士が持っているわけがない。
そもそも、今まで使っていた現地人なんて、あの勇者くらいなものだ。
こいつらは勇者に匹敵する立場の存在なのだろうか? いや、そんな事は無いだろう。
なんだか嫌な予感がする。今は一刻も早く、
「ひたちさん、こちらは片付いた。そっちはどうだ?」
『幸い、こちらには誰も来ておりません。万が一の為に
「油断はしないでくれ。連中は迷宮産の武具を使っていた。それも全員だ。ものすごく嫌な予感がする。とにかく
『畏まりました。その状況となると、当然
「ああ、よろしく頼む」
ご武運を――か。意外と古風な感じだな。
そう思うと同時に心を引き締める。そうだ、あれが全員だという保障なんてどこにもなかった。おそらく、それを遠回しに伝えたんだろう。
やっぱり、ひたちさんの方がかなり場慣れしているな。
○ ◆ ○
一応は雨だけは凌げる簡素なテントの中に、10数人の人間が待機していた。
うち三人は何処から見ても召喚者。単純に髪や瞳の色ではなく、全身から発する何かが雄弁に物語っていた。
「リコーナ隊、反応ありません。その――全員共にです」
「アイテムの位置は?」
「確認できた限りですと、動いた様子はありません。ただ幾つかは壊れたらしく反応がありません。ですので
報告を受けた召喚者は自嘲気味に笑う。
「交戦前の報告では”アイテム登録の無い召喚者の反応”だったのだろう? なら確かに
「
「俺が適任なんだよ。あいつの”亡霊”を始末するのは俺の役目だ」
「それじゃあ行きますか、リーダー」
「これを終わらせたら、また
「そうだな。それでは出発。たとえいかなる犠牲を払おうとも、
「「「ハッ!」」」
全員の返事を待たずに、
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