第126話 不安定な性格なのだろうか
雨の中、道なき道を必死に逃げる。だけど振り切れる様子がない。
スキルを使いまくって瞬間移動を連続するか……と思うが、それで追いつかれたらどうしようもなくなってしまう。まさかこんな所で消えるわけにはいかないんだよ。
というか、そもそも振り切っちゃいけないし。ひたちさんたちにターゲットを変えられたら堪らない。
多分……いや、間違いなく彼女とひたちさんが戦ったら彼女が勝つだろうしな。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
クソ! スキルで無効化は出来ないのかよ。
毒なんかは効かなくなったし、これも何とかなるのかもしれないがな—なんて思うが、多分召喚者のスキルは別だ。
無敵の超人にはなれそうにないな。だが――、
彼女の足元――いや、彼女を中心に直系20メートルほどの大穴を開けた。走りながら下を外してあったのだ。
さて、これで埋もれてしまっただろうが、一応確認して――そう思った俺の頭上から現れた黒い影。
――上!?
慌てて勇者の剣を抜き、ガードする。それは確実に成功した。ラッキーだった。
ガキンと音がして、上から振り下ろされて日本刀と打ち合って火花が走る。だが同時に――、
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
いい加減にしろよ全く。
ここまでやられて全くスキルが分からない。何をされているのかさえ理解できない。剣で打ち合っている時でさえ使ってくる。ある意味
そんな彼女が目の前から消える。今が雨で良かった。
足元で弾いた水が、方向を教えてくれる。右だ!
右から斬撃を剣で受けると同時に、その力を利用して後ろにジャンプ。相手の力を利用したとはいえ、10メートルは飛んだ。どう考えても人間の力じゃない。
目を見ればスキルの発動は分かる。俺を即死させているのが彼女のスキルで間違いない。
それに加え、勇者の剣と互角の刀、それに速度やジャンプ力、それにパワーもか。あれはアイテムによるものか。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。今更だが俺は
「な、ば、バッカじゃないの!? な、なんで親しくもない人に名前を教えないといけないのよ!」
いやちょっと待って。急に顔を真っ赤にして罵倒してきた。これは俺が予想した展開にはまるで含まれていなかったぞ。
もうちょっとなんというか……あれ?
「い、いや、俺の方は君を知らないからな。聞いておきたかったんだよ」
「こ、殺し合いをするのに名前なんていらないでしょ! 私はあの時のリベンジを果たして力を証明する。ただそれだけの事……そう、それだけなのよ!」
――早い!
この足場と視界の悪さ。生い茂る草木。こんな状況でも、強力かつ正確な斬撃が放たれる。
剣術はどう考えても向こうが上。
上段から振り下ろされた刀をギリギリで受ける。だが鍔迫り合いになると分が悪い。圧倒的な力に押され、バシャッと水溜まりに膝と付く。小柄ながら、なんつーパワーだ。あまりにも分が悪い。
「い、いや、前の時の事が気になっていてね。傷付けてしまった事は謝りたいと思っていたんだ」
そういった途端、10メートル程バックジャンプ。この足場で良く動けるな。
「な、な、何であんたがそんな事を気にするのよ。て、敵同士だから戦っただけでしょ!」
「いやまあそうなんだけどな。信じてもらえないかもしれないけど、俺には戦う意思は無かったんだ。あそこに行ったのも、そこでの行動も、ちゃんと理由があるんだ。だけど今はそれよりも、傷は残っていないか? それが気になっていてね。本当にすまなかった。出来れば戦いたくはない。それは本当の気持ちだ」
多分俺の行動は、彼女にとっては完全に予想外だったらしい。
何か言いたそうに口をパクパクさせているが、言葉が出てこない様だ。
それに俺がいった事もまた本心からだ。出来れば戦いたくはない。ましてや数少ない同じ世界の住人じゃないか。しかも個人的にもなんの恨みも無い。戦うなんて間違っている。
この際、以前トドメを刺そうとした事は忘れよう。
だが彼女は深呼吸をすると、再び武器を構え直す。
ああ、分かっているよ。俺に対する抹殺命令が出ているのはもう聞いているし、秘宝とやらの奪還も任務に含まれているのだろう。
彼女には、戦いを止めるべき理由がないのだ。
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