【 再戦 】

第125話 因縁の対決とでも言えばいいのか

 ぽつぽつと雨が降り始め出す。

 状況が状況だ、スキルによるものかと勘繰ってしまう。


「こんな所で会うとはね。単純な哨戒任務かと思ったけど、これも奇縁というものか」


「召喚者はそんな事もやらされるんだな」


「それもこれも、全て君のせいだけどね」


 ちょっと漢らしい口調。もうちょっとハスキーならイケメンボイスといった感じだ。

 だが実際には誰が聞いても間違えようのない女性的な声。おそらく、年齢も俺と近いだろう。

 だがやはり、神殿とか言う高層タワーで会った時と同じだ。歳相応の若さを感じない。


 美人というか可愛いというか……よくよく見ればちょっと童顔か? とにかく整った顔立ちに艶やかな黒のポニーテイル。

 もし平和な俺達の世界であれば、かなりモテたのではないだろうか。

 俺が肩から袈裟斬りにしたブラが透けるほどに薄いシャツは直してあるが、何と言うか……雑に縫ってある。自分でやったとしたら、かなりの不器用だ。あれだけ大きな都市なのだから、腕のいい職人もいるだろうに。


 ただあの時の教訓か、今は革製の小さな肩当てショルダープレートを付けている。ついでに透けて見えるブラは黒だ。雨のせいで、よりはっきりと見える。

 いや、後半は関係ないな。忘れよう。とにかく、あの肩当てショルダープレートが普通の物とは思わない方が良いだろう。

 下はあの時と同じ、ショートパンツに膝サポーター。お気に入りなのか、特別なアイテムなのか。まあこれは後者だろう。


 そう、彼女は塔で戦った相手。途中で龍平りゅうへいの乱入があったが、あれがなければあの時に殺していたと思う。

 まあ平常心の今だと、そんな物騒な事は考えられないけどな。

 ただ殺さなかった事を後悔するかもしれない――そんな予感が頭を巡る。


 無造作に、無防備に、足元の草葉を踏みしめてこちらに近づいてくる。

 ただ歩いているだけなのに、その圧が凄い。あの時、結局彼女に何回殺されたのだろう。

 スキルのおかげで強制的に外れていなければ、もう既に俺は芋虫の餌だ。

 というか、よく見ればあの時と違って日本刀のような刀を所持している。何と言うか、似合い過ぎだろう。


 取り敢えず、後ろに回した手だけでひたちさんに合図する。

 それだけで理解してくれたのだろう、彼女とセポナが遠ざかって行く気配を感じる。

 先ずは懸念材料の一つはクリア。何せ彼女のスキルは依然分からないままだ。ただおそらくは、範囲系。ひたちさんもそうだが、セポナが巻き込まれたら即死だ。ついでに俺もな。

 果たしてその場合でもスキルは発動するのだろうか? その時にセポナはどうなっているのか……あまり考えたくはないな。


「今更だけど、アンタに対して抹殺命令が出ている事は承知の事と思う。だからこんな場所で会うとはちょっと予定外だったね。一応聞いておくけど、秘宝は持っていないんでしょう?」


「そりゃ当然だな。持っているわけがない」


「そう……一応、もし返しに来たのであれば、それに免じて見逃すことも考えたのだけど……」


「それは優しいお言葉だが――」


《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》


 全然優しくねぇ! 一体何なんだ、こいつのスキルは。

 周囲の植物に変化は無い。何かが刺さったり切れたりした様子もない。

 何より、この雨に変化が無い。考えられる可能性は無限にあるが、今は――、


 俺は脱兎のごとく、生い茂る茂みの中にへと駆けだした。

 どちらを追う? 俺が秘宝とやらを持っていない事は確信しているだろう。ならひたちさんたちを追うか?


《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》


 だよね。持ち歩いていないとなれば、在り処を聞き出したいだろう。でもそれをするなら一番弱い奴、そして簡単に吐きそうな奴だ。強い奴は始末しておくのが定石だよな。

 それに以前戦った時の恨みもあるか。よっぽどひねくれた性格をしていない限り、彼女の攻撃対象は俺でしかないって事だ。


「素直に秘宝を返すなら、寛大な処置が下るだろう。投降して罪を償え!」


「何度も攻撃しておいてから言うセリフか! 大体罪の償いってのは死刑だろうが。木谷きたにから聞いているぞ」


「秘宝さえ返せば、また帰れるようになる」


「それを信じるほど、お人よしでも無知でもないんでね!」


 何も分からない以上、今は逃げる。だけど逃げきっちゃだめだ。

 俺を見失ったら、次はひたちさんたちを探すだろう。

 とにかく手の内を見極め、有利な地形を探す。その前後は逆になってもいい。今は――、


《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》


 俺が消える前に、何とかしないとな。

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