第124話 やはり近くに行けば人間もいるか

 こうして雑談をしながら道なき道を進む。

 夜は見張りを立てつつも、しっかりとする事はする。これは俺の精神を維持するためだ。

 決して快楽の為では……嘘ですごめんなさい。

 なんだかもうどっぷりと漬かってしまった気がする。これで本当に奈々ななを取り戻すとか言えるのだろうか。というか取り戻したとして、なんて言い訳するんだ?

 泥沼の三角関係の中、胃に無数の穴が開く様な気がする。木谷きたにのダガーを受けた時の様に外しておくか?

 いや無理だな。


『ハーレムを作れ。それが、お主がこの世界にあり続けるための唯一の方法だ』


 ダークネスさんにはそんな事を言われたが、ハードル高すぎますよ。

 俺が普通の高校生だって事、忘れているんじゃないんですか?

 いや、それも嘘ですごめんなさい。

 今更、普通の高校生は無いよな。

 多くの人を斬った。召喚者も、現地人も。挙句の果てに、木谷きたにが連れてきた二人を『ただの素人』と言ってしまったんだ。俺も染まってきたような気がするな—。


「考え事ですか?」


 いつの間にか、横で全裸のひたちさんがこちらを覗き込んでいた。

 ちょっと心ここにあらずという感じだったから心配してくれたのだろう。

 というか、失礼だったかな。


「いや、これからの事を考えていたんだよ。まだまだ先は長いからな」


「そうですね……ふふ、見張りをしていたセポナ様は、もう寝てしまっておりますわね。それではわたくしが――」


 本能的に、立ち上がろうとする彼女の手を掴む。


「いや、良いよ。ここからは俺が見張ろう。先はまだまだ長いんだ。休息も大切だぞ」


「かしこまりました。それではセポナ様を連れてきますね」


「頼んだ」


 そうだ、先はまだまだ長い。

 200キロメールという距離……この怪物モンスターが徘徊する道なき大自然。通常、決して人間が立ち入らない場所。危険の多さを考えると気が重くなる。ここまで凄い状況とは思ってもいなかった。精々里山くらいを考えていたよ。

 だけど弱気はダメだ。出発した時に、きちんと覚悟は済ませて来たじゃないか。

 絶対に二人を守りながらロンダピアザへと戻る。だけど満身創痍で辿り着いても意味はない。

 到着した時には、完璧な状態じゃなければいけないんだ。

 俺は星空を見上げながら、改めて覚悟を決めていた。





 ○     ★     ○





 こうして27日後。俺達はロンダピアザまで30キロメートルの距離まで迫っていた。

 いや、こう言ってしまうとあっさりと到着したようだが、実際はセポナが再び怪物モンスターにさらわれたり道なき道を通り、蔦を使って崖を下ったり登ったりと、それはもう大変だった。一冊の冒険譚が書けてしまうほどに。

 だけど、今はそんな事を思い返している余裕は無い。


「ここまで来ると、さすがにもう壁がハッキリと見えるな」

 まあ富士山よりも高いのだから当然か。

 そろそろ多少の木々や起伏があってもきちんと見える。道に迷う事は無さそうではあるが――、


「ここにもありますね。野営の跡です。それにこれ見よがしにある足跡の他に、巧妙に偽装されたものも見られます」


 目の前にあるのは野営の跡だ。土で作ったかまどやテントの痕跡など……規模はええと……。


「おそらく20人ほどの人数とは思いますが、どれほどのグループが動いているかは不明ですね」


 ありがとう、ひたちさん。

 そう、もうここは連中の勢力圏。

 何らかの手段で接近を感知して俺達を探索している可能性もないではない。だけど、都市の周辺は常にレンジャー隊が見回っているという。

 理由は簡単。大変動の後だからだ。何処に厄介な出入り口が出来ているか分からないし。1か月程度でそれを探しきるのは不可能だろう。だからまだ探索を続けている事は不自然じゃあない。

 まあそれが無かったとしても――、


「外に町や村もあるって聞いていたから、そういった連中がいる事は最初から分かっていた。だけど足跡の偽装は必要か? どう考えても、知的生物を仮想敵にしなければ無駄な作業だぞ」


「実際にモンスターの中には知性を持つ種類も少なくはありません。ですが……そうですね。用心に越したことはないでしょう」


 そんな事を話し合っていた時だった。

 突然に響くパキッと小枝を踏み折った音。全身が警戒を促すが、そいつは奇襲などはせず、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

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