第123話 是非中を見物してみたいものだな
まあ生き物には干渉しない謎のエネルギーか……。
いや、案外干渉はしているのかもしれないぞ。
だが俺は学者じゃないし、俺が原因を突き止められるならこの世界の人間がとっくに突き止めているだろう。考えるだけ無駄な話だ。
「確かにそうですね。ただそのせいかは分かりませんが、いきなり火薬が爆発する可能性があるのです」
「そいつは嫌すぎだな。それで使われないのか。というか熱限定か?」
「摩訶不思議な現象は数多くあります。ただ熱関係は多いですね。同様の理由でダイナマイトなどの火薬類全般が普及しておりません」
「なるほどねぇ……」
まあこの世界は不思議だ。そもそもスキルなんてもの自体がどんな原理なのか謎だしな。
大事なのは、普通に考えればこの世界に銃や大砲、地雷なんかは無い。その点は安心できそうだ。
でもまあ火器なんてものは、本来輸送技術か弾薬などの流通経路があってこその物。確かに強力だが、使い捨ての武器として持ち歩くには重すぎる。さほど気にする事もないか。
というよりその超常現象の方が問題か。大変動ばかりに気を取られていたが、それ以外にも何があるかは分からないって世界だ。しかもある意味銃より危険なスキルってものがある。気を引き締めていくとしよう。
そんな会話をしながらも、俺達はもう出発していた。
今更だけど、同行者はひたちさんとセポナ。
危険を考えたらセポナは置いて行くべきだろうか?
ただちょっと違うのは、セポナは貝殻の小さなイヤリングを付けている。
単なるおしゃれではない。俺の頭につけてある、絶対に似合わないであろうウサギの髪留めと一緒。つまりは通信機だ。
ここは今までの狭い世界とは違う。多分必要になるだろうという、ひたちさんの心遣いだった。
こうして村の外に出た俺達だったが、外の世界は俺の想像をはるかに超えた世界だった。
ほぼ隙間なくびっしりと生い茂る植物たち。所々にある道のような場所はおそらく獣道だ。かなりでかい。絶対に会いたくないが、腹が減ったら逆に会いたくなりそうだ。
木々は高く、間を塞ぐように大量の蔦が茂っている。おかげで日が出ているのに思いのほか暗い。
温かい程度とはいえ、日差しに照らされた行軍は疲れる。これは有難いが、足元の植物が邪魔で邪魔でしょうがない。
つかたまに噛んでくる奴がいる。虫やネズミでも狙っている食肉植物だろうか。まあブーツのせいで痛くもないが、なかなか放してくれないのが厄介だ。
起伏も多く、今まで住んでいた世界がどれほど人の手が入った人工物かを思い知った。
本当の自然は、マジで厳しい。
半日も歩かないうちに、三人とも疲労のため休憩となった。
というかセポナは早々にダウンして、工程の半分は俺が背負っていたわけだが。
「セポナさんは現地人ですし、背も低めですから」
「素直に若くないって言っちゃって良いですよー」
いやまだ23だろ。十分若いって。
そう言ってあげたかったが、女性に歳の話はタブーだ。触らぬ神に祟りなしってね。
少し風の吹きこむ場所で休息しながら周囲を観察するが、見渡す限りの大自然。どこにも人工物なんて見えやしない。
人間はあの壁に囲まれた巨大建築物の世界に密集して暮らしており、外は大自然。
聞いてはいたが、何と言うか文明から完全に切り離された感じがする。
それもあるが、地球に比べると人間の生息域が相当に狭いな。それもあってあの建築群なのだろうか。
「ああそうだ。あの翡翠色の建築物は、全部神殿だのなんのと意味がある物なのか?」
「そういったのは一部だけで、企業が使っていたりお金持ちが住んでいるんです。それと上は農業プラントになっていますよ」
「総合高級マンションみたいなものか。ん? 農業プラント? そういや食糧事情なんかはどうなっているんだ?」
どれほど文明が発展しようが、人口を維持するには食料が必須。そしてそのためには十分な土地が必要なわけだが……。
「建物の上の方は酪農プラントですよ。穀物も野菜も肉も全部そこで作っています」
「穀物や野菜は水耕プラントの様なものか? だけど肉ってのが分からん。ブロイラーか?」
「なんですかそれ? まだまだ知らない単語が出てきますね。因みにどんな意味なんです?」
そう言ってセポナはメモを取り出した。勉強熱心だな……そう思うと、俺も元の世界にいた時はああやってよくメモを取っていたっけ。
「まあなんだな、狭い所で家畜を育てる方法というか……うーん」
「はー、家畜なんて大金持ちの娯楽ですね。まあもっと上流階級は
そう言いながら、うっとりした目で遠い目をするセポナ。
いいから涎を拭け。
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