第122話 支度をしていてふと気になったのだが

 と、紆余曲折してダークネスさんと樋室ひむろさん両名と話し合った結果、無事……と言うのもおかしいが、ロンダピアザへ向かう事になった。

 ここから約200キロメートルの旅路だ。遠いと言えば遠いが、さすがに地下の迷宮ダンジョンを何か月もかけて踏破するよりはずっとましだ。


 結局、坪ヶ崎つぼがさきさん……というか年下なのだから正臣まさおみ君と呼ぶべきだそうだが、どうも無理だ。あの見た目でもう絶対にダメ。

 まあそもそも実際にこの世界に来てからの年月を加味すれば、俺より遥かに年上なのだ。これで良いだろう。

 いやそれはともかく、とにかく彼と会うことは出来なかった。それぞれ地上でやる事があるらしく、他にいるという5人の内、4人にも会っていない。


 唯一会えたのは剣崎智弘けんざきともひろさん。

 道具転送アイテムテレポーターのスキル持ちで、その関係で常に村に常駐しているそうだ。それはそれで退屈そうだけど、本人は一切戦えないから村の外にはそもそも出たくないという。適材適所でなにより。


「それじゃあ出発しようか」


「ええ、支度は全て整っています。敬一けいいち様も忘れ物は無いように」


 とはいっても、必要な物資は全て送ってもらえる。俺が持っていくものといえば、武器と防具にちょっとした荷物か。

 鎧は前に送ってもらったのと同じもの――薄くて軽いが丈夫な革鎧。こいつも強力なアイテムであるらしい。

 奈々ななには吹き飛ばされ、木谷きたににはズタズタにされたけどな。

 まあ今までは相手が悪かったという事で……。


 それに一応は手持ちがあった方が良いだろうという事で、いくつかの固形燃料や皮や肉を剥ぐために使う小刀などのサバイバルキット、それにずっと野営になるので薄いが毛布なんかも持って行こう。

 万が一物資が送れなくなったら、大変だーでは済まないしね。


 それと武器。やはりこいつが一番重要だ。命を預ける相棒だからな。

 先ずはセポナを助けた時に拾った勇者の剣だ。勇者の剣2号と言うべきかもしれないが、なぜか俺はこれがあの時の剣に思えて仕方が無い。そんな訳で、今まで通り勇者の剣と呼ぼうと思う。

 ごく自然に腰に挿し、我ながら慣れたものだと思う。

 それに二代目ダークネスさんの剣も持って行く。何度も助けられているしね。

 多少重くなるが、この程度は許容範囲だ。

 あ、それと同時に思い出した!


「ひたちさん、この世界に銃って無いのか?」


 今までごく普通に剣だと槍だの――まあパンチってやつもいたが――とにかくみんな白兵戦が主体だった。

 だけと飛び道具という概念が無いわけでは無い。弓はあったのだ。

 まあスキルは別と考えるにしても、俺達の世界の文化や風習が流入しているのに銃や大砲がないのは不自然だろう。


「何度か挑戦はしていますし、実際に成功はしていると聞いています。ただ実用を考えるとかなり難しいので、わたくしたちは保有しておりません」


 銃の構造ってそこまで複雑だったか?

 いや作れと言われたらさっぱりだ。一応は俺の雑学に銃と薬莢の構造もあるが、それを実際に作るには――というか作る施設や道具を作るのが大変だ。

 それに実践経験がないのだから、下手をすれば数年間の試行錯誤が必要だろう。


 でもここに居る人たちには、それだけの時間はあっただろう?

 いや、材料の問題か? 火薬やその材料が無かったとか? 硝石は何とかなりそうだが、硫黄は? そもそも火山なんかはあるのだろうか?

 あんな巨大な建築物が成立する世界だ。そもそも地殻変動が無い可能性も……。

 まあ考えても仕方が無いか――、


「無いなら無いで良いけど、一応出来なかった理由を教えてくれ」


 その理由次第では、相手は持っているというずるい可能性がある。


「そうですね……上手く説明できるかは分かりませんが、この世界にはわたくしたちの世界には無いエネルギーの流れが存在しています」


「うーん……すぐに思いつくのは大変動だな」


 惑星規模で行われる内部の大変革。地下構造が僅かの間に作り替えられるとんでもない大事件だ。いったいどれほどのエネルギーによるものなのか想像すらつかない。しかも地下で発生した大地震でも、地表は一切影響なし。実に不思議な現象だ。


「はい、その通りです。実際にそれを検知して大変動の予測が出来ているのですから――」


「そのエネルギーが存在する事は確定か。だけどまあ、疑ってはいないよ。ただそれと銃にどんな関係があるんだ?」


「そのエネルギーの流れが関係しているかはわかりませんが、私達の世界では起こり得ないような現象が多数観測されています。生き物に直接作用する事はありませんが、川がいきなり沸騰したりする事もあるのです」


「直接作用しなくても、魚からしたら結果は同じだな、それ」

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