第121話 外しきった先に残るものは何なのだろうか

 確かにもう一度ロンダピアザに戻る事は、完全に俺の我が儘だ。無関係の人間を巻き込むことはおかしいだろう。

 しかも地上が危険な事は、彼女の『一人で行けるつもりですか』という言葉だけでもよく分かる。

 考えるまでもない。ラーセットにはロンダピアザ以外の都市は無いし、他の大きな国も、巨大都市は少数のみ。外は自然あふれる世界……と言えば聞こえは良いが、実際には怪物モンスター跋扈ばっこする無法地帯という訳だ。

 そんな場所を通って敵地へと舞い戻るのだ。反対されるのも仕方が無い。


平八へいはちさんは賛成したと聞いていますが、雅臣まさおみ君は反対だそうです。貴方に私を説得させるだけの材料はありますか?」


 ハッキリ言って難しい。なぜなら、俺の理性は暫くここで生活する事を望んでいるからだ。

 召喚のキーとなっていたアイテムを研究し、俺のスキルを解析し、上手くいけば元の世界に帰れるかもしれないという。

 当然それは可能性の一つであって、確実な話じゃない。だけどすがるに値する内容だ。


 一方で、もう一人の俺は一分一秒でも早く瑞樹みずき先輩に会わなければいけないと言っている。

 多分これはスキルが関係している。俺が望む最良の結末――そこへ向かうために必ず必要な事だ。

 だけどこれの説明は難しいなー。


「一応スキルの効果だと思うのですが、そうするべきだと思うのですよ」


「それはスキルを言い訳にした、あなたの思い込みではないのですか?」


 はい、ですよね。絶対にそう言われると思ったんですよ。だって証明する手段とかないじゃない。


「そう言われてしまうと返す言葉がないですね。だからあえて言います。俺にとっての最優先順位は、やっぱり奈々なな瑞樹みずき先輩なんです。先ず二人の安全を確保する。もちろんここが俺達の世界より遥かに危険なのは知っています。道のりは険しく、場所は敵地だ。だからといって、運命とやらに丸投げしてここで安穏と無事を祈り続ける――そんな事、俺にはできないんです」


「それはひたちよりも上という事ですか?」


 どちらが上……か。もしひたちさんが、『わたくしの為に行くのはやめて!』と懇願してきたらどうだろう?

 考えるまでもない。俺は彼女を置いてでも行く。

 肌を合わせておきながら、薄情な男だろうか? いや考えるまでも無い。俺は最低だ。

 ではあるが、それはひたちさんが下だからという訳じゃない。


「上とか下とかの話ではないんです。ただ、俺の本能が訴えているんですよ。急げ、急げと。このままでは間に合わなくなってしまうと」


 これは決して嘘ではない。まるで見えない何かに心が引かれているように、俺はロンダピアザに行きたくてしょうがないのだ。


「そうですか……平八へいはちさんが言っていました。貴方のスキルは良くも悪くも外すスキルだと。そうしてこれはダメだと思うものを外して、外して、外しきった結果、残ったものが何なのか……私も知りたいと思います。貴方がそこまで言うのでしたら、もう反対は出来ません。そして行かせる以上、もしひたちが命を落とす事になっても恨んだりはしません。ですが、何があっても必ず全員で戻ってきてくださいね」


 その真剣な眼差しを見てしまったら、軽口なんて出てこない。


「全身全霊を掛けて、彼女を守ります。言ったでしょう。俺にとって、彼女は奈々なな瑞樹みずき先輩と同格なんです」


「ではもし、誰か一人の手しか取れない状況に陥ったその時は?」


「そんな状況、俺が外して見せますよ」


 そこで初めて、樋室ひむろさんが笑った気がした。

 だがそれも一瞬。そこからは一転して、真面目な話を色々とした。

 過去の話、これからの話、そして研究の事も。


 話しながら心の端で思う。というより、話すほどに確信が深まって行く。

 やはりここに残って、帰る道を模索するのも一つの手かもしれない。

 そして完璧な成果を土産にロンダピアザへ戻る。それこそが完璧だ。彼らも、その研究成果を無下にはしないだろう。

 嘘をついて反乱の危険を内包しながら働かせるよりも、本気の志願者のみにやってもらうのが一番なのだから。


 だけどそれは達成されない。それがスキルのせいかは分からないが、俺は知っている。このままでは間に合わないと。

 それは彼女に話した通りだ。嘘など一欠けらも無い。

 研究の成果が出る前にここが見つかり時計アイテムを奪い返されるか、今のままではピースが足りないか……もっと別の何かかもしれないけれど、とにかくこのままでは研究は頓挫して終わる。何の結果も残せないまま……。

 だから逆に大丈夫。俺のスキルが行けと言っているんだ。そこには必ず何か意味はあるさ。

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