【 再びロンダピアザへ 】

第118話 この人には真摯に答えなきゃいけないな

 ひたちさんの説明で向かった先は、石造りのさほど大きくはない家だった。

 一見したところは平屋で、面積は俺の住んでいる家よりも小さい。

 もうちょっと不気味な城みたいなところを想像していたが、考えてみれば来た時にそんな怪しい建物はなかった。だがこういった場合は地下があるのと考えるのが妥当かもしれない。だとしたら、いったいどんな怪しい世界が広がっているのだろう……。

 怖いと思う半面、興味があるのも事実だな。

 取り敢えずノックとあいさつをして、俺は指定された家に入った。


 ……って目の前にいるし。


 入ってすぐがリビングなのは俺の家と変わらない。奥には扉が一つだけだ。

 中央にはテーブルと椅子があり、真正面に平八へいはち……いや、ダークネスさんが座っていた。

 両隣に双子も座っており、足をプラプラさせながらこちらを見ている。興味津々といった感じだ。

 因みに馬はいない。当たり前だと思うが、何となく室内で騎乗していてもおかしくないからな、この人。


「よく来たな。まあ座りたまえ」


「お邪魔します」


 何だろう、改めて対峙すると凄い迫力だな。全身を覆う黒い鎧にのっぺらぼうの兜のせいもあるが、それ以上に人ではない何かの様な、そんな不気味さを感じる。

 まあ、失礼な感想であることは十分に分かってはいるけどね。


「呼んだ理由は今更言うまでも無いな。ロンダピアザに行く件に関してだ」


「だろうと思いました。その……ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんも反対ですか?」


「いや、反対などせぬよ。好きにするがいい」


 それはちょっと意外な返答だった。

 引き留めて欲しかったわけでは無いが、それはそれで小言の一つも貰う覚悟で来たのだから。


「だが例の時計に関しての研究はまだ始まったばかりだ。同時に召喚に関しても研究しているが、こちらも何一つ不明であるな」


「そりゃあ、昔の人間が色々と試行錯誤した結果でしょうし、材料一個からでは大変でしょう」


「ふむ、それが分かっていながらなぜ向かうのだね?」


「前回会えなかった人がいるから……という答えじゃだめですか?」


「ダメだな」


 やっぱりかー。

 だけどダークネスさんは反対しているわけじゃない。

 それに興味本位でもないだろう。初めて出会った時から一貫して、この人は俺の味方だ。大恩人といってもいい。

 その人が気にしているのだから、こちらも本気で応える必要があるだろう。


「色々と聞きたい事があるのは事実です。先輩の事もそうですが、龍平りゅうへい――まあ知っていると思いますが、俺の親友です。彼と戦った時、まるで別人でした。その件に関して、確実に知っていると思われるのが瑞樹みずき先輩なんです」


「その先輩にも襲われるのではないかね? 他の二人がそうであったように」


「そうかもしれませんし、多分そうです。でもそれでも俺がいない間に何があったのか、多分聞けるのは先輩だけなんです」


「それは君の勘……いや、スキルかね?」


「そうかもしれません。沢山のやりたい事の中からダメな事、無理な事が外れた結果ですから」


 考え込むようなしばしの沈黙。しかし――、


「その結果が、前回の結果だったのではないかね?」


 その強力な言葉に吐血しそうになる。

 奈々ななの事を思い出すと、全身に鳥肌が立つ。今にも泣きだしてしまいそうだ。実際問題として、あれは強烈だった。

 だけどここで挫けてはいられない。


「確かに前回はきつかったです、精神的にも色々と。もう起きてしまった事は変えられない。その事も痛い程に分かりました。でもきっとどこかに解決する方法があると、そう信じているんです」


「……楽天的だな。世の中はそう甘くはあるまい」


 ズキーンとくるが、それもまた事実。

 何をしたってダメな事があるくらい、俺だって理解しているさ。だけどさ――、


「だけど、やっぱりこのままにはしておけないんです。俺は何も知らない。だからこそ知らなきゃいけない。その中でも、奈々なな瑞樹みずき先輩、龍平りゅうへいに関しての事だけは譲れないんです。それに――」


「それに?」


「ダークネスさんは、何で結婚する時、左手の薬指に指輪をするか知っていますか?」


「互いの愛を深めるため、と言われているな」


 質問しておいてなんだけど、答えるとは思わなかった。

 いやでもそれはいくらなんでも外見のイメージにされ過ぎか。


「では小指にはめた場合はどうです?」


「右手だったら永遠の愛への誓いを」

「左手だったら幸運を呼びよせる為」


 今度はダークネスさんではなく、両脇に控えている双子が応えた。

 何でそんな事を知っているんだ? 別の意味で驚いたぞ。まさか文化が共通しているわけでもあるまい。

 というかダークネスさんは沈黙している。こちらの言葉を待っているのだろう。

 まあ、こちらだってクイズをしに来たわけでは無い。


奈々ななと会った時、あいつは隷属の指輪とやらを左手の小指にしていたんです」


 それが、奈々あいつと会った時に感じた最大の違和感であった。

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