第116話 スキルに慣れるのは本当はよくない事なんだろうな
「まちやがれ!」
マズい――大変動の後、最初に出現するのが大型で危険なモンスター。その後に通常の個体、小型、最後に死体を漁る生き物が出ると聞いている。
つまり、あいつは最初に出現する大型の強個体。召喚者さえ倒す事があるというそれだ。
どうしてまだセポナが無事なのかは分からないが、とにかく殺されないのは良い事だろう。
俺はポケットに手を突っ込むと、可愛らしいうさぎの髪留めを取り出した。
今更だが、おしゃれじゃないぞ。これは以前、地上に出る時に受け取った通信機。
さすがに日常的に付けているのは恥ずかしいので、普段はポケットの中に入れていたのだ。
「緊急事態だ。セポナが奇妙なモンスターに連れ去られた。現在追跡中だ。相手は柱に擬態していたので正確な大きさは分からないが、20メートル近くてほぼ透明。それに内部には黒い粒々があって、セポナはそいつの触腕みたいのに捕まっている」
「それは多分……いえ、間違いなくラゴと呼ばれる
「名前はどうでも良い。特性や強さを教えてくれ」
「全身にある黒い粒々は全て卵です。女性だけをさらい、苗床を作って繁殖する性質を持ちます。体液は女性の体を麻痺させますが、男性には効きません」
エロモンスターかよ!
思わす通信機を床にたたきつけそうになったが、ここは我慢だ。
とにかく苗床とやらに付く前に始末をつけないと。
セポナを捕らえたまま
ひたちさんの話だと、女性は殺さないらしいからまずは一安心だ。だが紳士な相手という訳ではない。女性を苗床にして繁殖するという
透明な体の中に見える黒い粒々は全部卵だそうだ。セポナとは関係なしに、そういった奴はオスとして見過ごすわけにはいかない。
というか最初の会話がフラグになったか? 運命論者ではないが、そんな事を考えずにはいられない。
だけど幸い、この
女性など一人もいないのだから、こいつの仲間が増えた可能性は無い。
そんな事を考えていると、まるで床に張ったタランチュラの巣のような場所に到着した。
床一面に広がるのは、まるで薄く芸術的なベールの様。人間が織るには細かすぎるほどに薄い。だけど足を踏み入れると、べちゃッと嫌な音がした。
うーん、くっつかなかっただけマシと思うべきだろうか? まあ見た瞬間、その可能性は外していたけどな。
向こうもこちらに気が付いていたのだろう。セポナを床に置くと、床のベールが生きているかのように彼女を包み込む。
なるほど、あの後種付けして繁殖するって訳か。
だけどまあいい。俺は腰に挿していた、二代目ダークネスさんの短剣をすらりと抜いた。
一体何本あるんだろうなとも思うが、まあいいさ。とにかくこのエロゲーに登場するようなモンスターには消えて貰って、さっさと本筋に戻るとしよう。
「ご注意ください。それはかなりの強敵です。幸い男性にとっては普通のモンスターですが、それでも強いことに変わりはありません」
「先に言ってくれよ」
俺は壁にめり込んでいた。不用意に飛び込んだ瞬間、極太触手の一撃を受けて壁に叩きつけられたのだ。
当然スキルも発動した。チクショウ。
相手がデカすぎるし、モーションも読めない。ぶっちゃけると攻撃がまるで見えない。
現地人の兵士だと、こいつ一体を討伐するのにどれほどの犠牲を出すのだろう。
そんな事を考えている間にも、時間差で左右、そして真上からの攻撃が飛んでくる。
本体はゆっくりぷるぷるしているように見えるだけだから本当に厄介だ。ここまで動きが読めないと、対処のしようがない。
まあ、もうどうでも良いか。それは普通の人間の場合だ。
全ての攻撃を外す。対処なんてそれだけで十分に通用する。相手の攻撃に干渉するのは大変だが、対象が自分なら造作もない。
まるで滑る空気の幕を纏っている様に、俺の体は触手の素早い動きに合わせて高速で移動する。
もし知性があるのなら相当に驚いているだろう。
だがこちらの攻撃も効果が薄い。斬っても裂いてもすぐに繋がってしまう。即修復するゼリーみたいなものだ。
とはいえ、床や壁の様に外してバラバラにも出来ない。俺のスキルは生物などの意思を持つ相手に対してはどうにも効かないからな。
足元を崩して――アイディアは浮かぶがそこから先にピンとくるものが無い。
多分だが、この下に空間が無いのだ。もしくは力の限界の先か。
どちらにせよ、それはこの不利な状況を外す手段にはならないと判断しているのだろう。
我ながらよくこの状況で冷静に考えていられるものだ――そんな馬鹿な感心をしていると、壁際にまで追い詰められてしまった。
そして今度は押しつぶそうとしたのか全身で体当たり押してくる。その時、あっ――と思った。
いや、死ぬな――なんて思ったわけじゃない。
下がダメなら上があるじゃないか。俺は天井の構造を外すと、ここに瓦礫の雨を降らせた。
当然俺は外しているが、雨の様に飛来する瓦礫を外しきることは出来ない――が、一瞬で弾かれるように範囲の外に出ていた。うん、便利。段々とスキルを使いこなしている実感がある。
だがそれは、同時にこの世界からの消滅を意味しているのだが……。
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