【 迷宮の怪物 】

第114話 今度は随分と美しい迷宮になったな

 それから12日後。


「大変動を確認しました。残念ながら、ここから迷宮ダンジョンへの入り口は塞がってしまいました。完全な袋小路です」


「それは構わないよ。どうせ不要だしな。必要なら先への穴は空けておくよ」


「そうですね。今のところ、急激なエネルギーの戻りは確認されていません。すぐに再度の大変動は来ないと思われます。一応、穴の方はお願いいたしますね。採掘などをしたい方もいらっしゃいますし」


「了解した」


 幾つものクリアしなければならない条件。その内一つはこれでクリア。

 まあこの不安定な世界で確実な事など言えないが、即時の大変動が来ない事が大前提だった。

 もし近いうちにもう一発とか言われたら、俺はその間この場に留まる必要があったのだから。その点、今回は運がいい。

 それにまあ、万が一の為に今の迷宮ダンジョンの様子も見ておきたかったしな。


 そう、俺は地上を通ってラーセットに戻る。地下には無数のお宝が眠っており、大変動後はそれが表に出てくる。召喚者にとっては最高の稼ぎ時だ。

 それだけじゃない。普段は深くに潜れない召喚者以外の人間も、一獲千金を求めて大騒ぎだろう。そしてその富を待つ人間達の期待も大きい。


 ただ外に出入り口が出現する事もある。当然外の見回りは普段より厳しくなりそうだが、既に他国との牽制で普段は外に出ない人員が外回りをしているという。今更変わらないだろう。

 というか、多分予想よりも減っている可能性がある。

 首都やその周辺はきっとお祭り騒ぎだろう。何処も大忙しで、余計な人員を裂いている余裕なんて考えられないからだ。

 それだけに、この機会が最大のチャンスとなる。

 更に大変動後、最初に出てくるのは強力なモンスター。教官組とかいう連中を含めて、強い人間はそれらの相手で忙しいだろう。


 そんな訳で一刻も早く出発したかったが、こちらもそれなりに支度がある。

 それに出来る限りお礼も済ませておきたいし、そもそも首都が賑やかになるには時間がかかる。

 今行っても、逆に初期調査の状況で全員地上にいる可能性だってあるのだ。

 まあそういった事情によって、こうして俺は再び迷宮ダンジョンへと向かった。セポナを伴って。

 ――って、なぜいる?


「セポナは無理しなくていいんだぞ?」


「いえいえ、見ておきたいじゃないですか。迷宮ダンジョンが変わったわけですし。何か面白いものも出ているかもしれませんよ」


 興味本位かよ!

 だけどまあ、気持ちは分かる。

 国どころか世界を支える巨大迷宮。その恩恵で生活しながらも、一般人はその様子を実際に見る事はない。危険だしな。

 だがセポナは数奇な運命の結果、迷宮ダンジョンを見てしまった。確かに危険だがそれだけじゃない事も知った。

 まあ危険そうなら戻せばいいか。


「どっかのお姫様みたいに、何度も手間をかけさせるんじゃないぞ」


「何の話です? そちらの世界で有名な物語ですか?」


「ああ。シリーズの度にさらわれるんだ」


「確かに迷惑そうですが面白そうなお話ですね。今度聞かせてください」





 目的地は岩壁についた不自然な扉。

 そういや予想はしていたが、大変動でも地上に変化はないんだな。あったらあんな巨大都市、一夜にして崩壊するが。

 しかし地下で経験したあの大地震。あのエネルギーはどうなっているのやら……。


 一枚開けるとその先も扉。そういや以前のセーフゾーンには柱が何本も立っていたな。この扉やあの柱なんかは、誰が作ったのやら。


 こうして何枚も開けていくと、ようやく現在の迷宮ダンジョンに辿り着いた。


「うはー、綺麗ですねー。ねえねえ、見てくださいよ。あんなところに銀色の何かが埋まっていますよ。掘ってみてください」


「あ、ああ」


 最初に見た時は岩だらけの広い迷宮。次に見た時は苔のように滑るミミズの通った穴のような迷宮。

 そして三度目に見た迷宮は、白亜の大神殿とでも言うような代物だった。


 壁も天井も真っ白い石素材。実に滑らかで鏡の様に磨かれた感じがして、スパイクで通るのが申し訳なくなる。

 所々に作りかけですと言わんばかりに石そのもの的な部分もあるが、そこも同じ素材だ。

 広いホールの様で、ちょっと不規則に……というかでたらめな感じで柱が何本も立っている。

 そしてあちらこちらに窓があり、そこからは優しいが、熱も何も感じない不思議な光が差し込んでいる。当然だがここは地下。あの明かりが自然の光じゃないのは明白だ。


「これが自然物だってのか……」


 豪勢な石の扉もあったが、開けてもどれも行き止まり。それどころか、単なる壁の模様の様に張り付いて開かないものまである。

 多数の階段もあるが、終着点は壁だったり空中だ。

 何だろう……見た目は凄いのだが、無数のパーツをでたらめに組み合わせただけって気がする。

 それでもこの造形は見事なものだ。本当に不思議な世界だな。

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