第111話 召喚者の犠牲の上に成り立つ弱小国家の繁栄か

 ちょっとした休憩も終わり、話が再開された。

 ついつい致してしまったので、セポナは風呂だ。底なしの性欲とか言われてしまいそうな気がする。


「かなりの大規模都市だったが、あれで小国とはね。そういや壁の外の話は少し聞いたけど、確か外にも人は暮らしているんだよな? こんな感じなのか?」


「大体同じです。危険もありますが、やはり外で作業した方が利便性の高い職業もございます。主に林業などでしょうか。そういった方々は、外部に村や町を作って暮らしています」


 情景は俺達のいた世界のように考えていいのだろうか?

 だけど魔物がいてあの高い壁……。


「外の世界はどんな感じなんだ? 以前、迷宮ダンジョンの出口が外に出来る事もあると聞いたよな? そして出てきた怪物モンスターの駆除を行うとも聞いた」


「その通りでございます」


「その時に思ったのは、まあ俺達の世界で言う害獣駆除だ。即時対応して大事おおごとにはしない。そんな感じだと思っていたんだ。要は俺達の世界と同じで、地表は人間の支配域って事だな。だけどこうして意外と近い場所に隠れ家のような場所がある。そして壁に守られた首都の外は危険なんだろ? 実際はどうなっているんだ?」


「そうですね……地球と比べるとかなり違います。確かに首都近郊に出現した出口は急ぎ対処が成されます。ただもうずっと以前より、迷宮ダンジョンの出口は世界中に出現し、そこから大量の怪物モンスターが出現しています」


「とっくに世界中に怪物モンスターあふれているって訳か」


「そうです。そしてゲームと違い、それらを倒しても得られるのは肉や皮などだけです」


「なるほど……地上に旨味が無いってのは分かった。欲しいのはほぼ全部地下にあって、地上は危険しか無いって事か」


「はい。地上の9割以上は、怪物モンスター跋扈ばっこする未開の領域です。一応どこの国も軍隊が人間の生存域を拡張しようとはしていますが、難しい所ですね」


 整理すると、あの壁の外には人外の世界。多分だが、雄大な大自然が広がっているのだろう。

 そしてそこは危険がいっぱい。リスクが高すぎて、人類は進出していないと。

 なんというか、よくその状態で人類は発展できたものだ。人間のしぶとさに感心する。


「他の国にも召喚者はいるのか?」


「噂ではあると聞いております。ですが、ラーセットと交流のあるような国にはおりません。もしかしたら過去形かもしれません」


「そういった召喚者がいない国の迷宮ダンジョンはどうなっているんだ? 確か何処の国も、必ず首都に迷宮ダンジョンがあるんだよな?」


「当然ありますし、そこから得られる鉱石や貴金属、それにアイテムが国家の根幹を担っています。ですので、迷宮ダンジョン攻略はどの国も最優先事業となります。そしてラーセットが小国ながら南北の大国と対等以上に渡り合っているのは、そこから得られる経済によるものが大きいからです。そうですね……およそ100倍ほどでしょうか」


 予想はしていたが、やはり少数単位で動ける召喚者と現地人の軍隊ではまるで違う。

 俺がここに来るまでもそうだったが、食える怪物モンスターや僅かな湧き水で飢えや渇きはしのげる。だけどそれも確実じゃないし、獲物がいないときの心細さは厳しかった。

 まあ俺の場合、そうなるとスキルが発動して何とかなるんだけどね。


 そういったスキルが無いと心細いが、それでも召喚者なら何とかなるだろう。固有のスキルもあるし、何より迷宮ダンジョンは意外と豊かだ。

 まあその表現が妥当かは置いておくが、モンスターという名の食料が結構襲ってくるし、地下だけあって意外と水もある。所々には植物なんかもあって、地下とは思えない程の場所もあった。

 要するに、少数であれば水も食料も現地調達が可能。そして召喚者とはスキルというチート能力持ちの集団だ。


 一方で、集団が入るのは大変というか無茶だな。

 まず食料の現地調達。それが不可能だ。さすがにモンスターの数には限りがある。

 水だって同様で、どれだけ得られるか分からない。10人なら何とかなっても、100人分となればさすがにきつい。ましてや千人規模の軍隊となれば、現地調達は不可能。人力で地上から運ぶのなら、それは確かに国家事業の話だ。


 だが折角用意した輸送隊も、決して安全とは言えない。

 突然のモンスターによる襲撃や大変動による地形の変化。危険は一杯というか危険しかない。

 そして輸送が滞れば、先行隊は壊滅だ。難易度の高さを考えるほどに、自分が責任者だったら逃げる自信がある。

 それでも各国は独自に攻略を行ってきたのだろうが、確かに効率は比較にならないわけか。


「そんな不公平があるのなら、周りの国はラーセットを取り込もうとするんじゃないのか? そしてそれは、必ずしも平和的にとは限らないと思うが」


「はい。国家同士の戦争はこの世界にも存在します。ただ片方が攻め込めば片方が防衛するでしょう。相手に取られるわけにはいきませんので。それに同盟して攻めてくる可能性も少ないと思われています。結局、南北の大国もまた、他の国に囲まれているわけですので」


「強大な富と力を有する国家の誕生を、周りが見逃さない訳か。まあ人類誕生から国境が引いてあった訳も無いだろうし、戦争自体に驚きはしないよ。しかしそうか……」


 何処の国にも諜報員スパイはいる。国家間で戦争があるのにいない訳が無い。

 俺の事はどこまで知っているかは分からないが、現在召喚が出来ない事は何処の国も知っているはずだ。サイレンまで鳴らして大々的に放送してしまったのだからな。

 なら世界は今後どう動くのだろうか? まあ答えは簡単か。


 コンコンと、扉をノックする音が聞こえてくる。

 予想より、だいぶ早かったな。

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