第108話 いや何かの冗談だろう

 部屋の中には既に3人がいた。

 アルミの様な机の上には湯気を立てたティーポットが置かれ、その上には無造作に置かれた様々な物体がある。虫も。

 空いている椅子が2脚。もう誰が来るかもわかっていたと言う事か。いや、これはもう当たり前だな。

 観念して、床の物を踏みながら席へと付くが、椅子の足部分はほぼ散らばった物で埋まっていて微動だにしない。いったい何センチの地層ができているのやら。これがゴミ屋敷というものなのだろうか。


 しかも対面は平八へいはちさんである。なんかすごく嫌。

 右隣にひたちさんが座ってくれたのが幸いだ。これで「わたくしは外で待っておりますから」とか言われたら、今すぐにでも出て行ったかもしれない。


 その右側に座るのは、筋肉で作られた鎧のような黒に近い褐色の肌に、数ミリ程度まで切り揃えられた灰色の髪。目は白目だけで瞳は無い。

 服装は上半身裸に下は生成りの麻ズボン。上は確かに何も身に付けていないが、その代わりにびっしりとした入れ墨が見える。何かの模様というより、幾何学……いや、様々な数式か? でも自分では見えないだろうに。

 座っているので身長はよく分からないが、確実に2メートルを超えているだろう。

 何処から見ても召喚者には見えないが、人間に見えるだけマシだ。


 左側に座るのは……いや、これ座っているのか?

 椅子の上には乗っているが、蜘蛛を思わせる毛のびっしり生えた白黒縞模様の四本脚。

 手……と言えそうな関節が10個くらいある器官が上半身からは6本伸び、頭らしきものがあるが体と共に無数の黒いパイプに覆われている。しかもそれが、まるで生物ようにうねうねと動いているのだからたまらない。


 というか三人とも黒いな。流行りか?


「お三方とも、見ての通り召喚者です」


 いや今本当に嘘だと叫びたくなったぞ。

 というかひたちさん、その配慮は本当に必要か? 逆にハートを傷つけたりしない?


「こちらは既に君を知っている。だから自己紹介は不要だ。だがそちらはこちらを知るまい。改めて自己紹介をさせてもらう。我がブラッディ・オブ・ザ・ダークネスだ」


 パチパチパチパチと、いつの間にか背後に立っていた双子が拍手を送る。

 いやそれも必要なの?


「僕は坪ヶ崎雅臣つぼがさきまさおみ。まあ見ての通り、普通の中学生です。だから敬一けいいちさんの方が年上になりますが、僕はここに来てもう28年になります。複雑ですね」


 お前が”見ての通りの中学生”だったら日本は凄まじい修羅の国だよ!

 つか声が太い! 低い! そっちの方が見た目にぴったりだわ。

 本当に同じ世界から召喚されているのか心配になって来たぞ。

 だが28年……ひたちさんが話してくれた反乱者の一人か。色々と知っていそうだな。


「あら、先にお茶を出さないとね。ちょっと待っていて頂戴」


 それはびっくりするほど可愛らしい女性の声だった。

 人を見た目で判断してはいけないと、改めて感じる。

 いや待て本当に人か? 俺までおかしくなっていないか?


 そんな事を考えている間に、細い腕でゴミの山から少し小さめの優勝カップの様なものを取り出した。


「あらやだ、卵が」


 なんか中をゴリゴリしてからポイと何かを床に捨てると、カップを俺の前に置き茶を注ぐ。

 いや待ってください。少し考えなおしてください。

 それはマジで客に出して良いものなのですか?


「ああ、こんな体で出されても気持ち悪いわよね。でも大丈夫、これは利便性を考えて作った体。本当の私は奥にいるわ。でもごめんなさいね、あまり自由には動けないの」


「い、いえ。そんなの気にしないでください」


 そう、気にするべきはそっちじゃない。

 というかこれはそうか、遠隔操作系のスキルで動かしている人形みたいなものか。

 ところでひたちさん、”見ての通りの召喚者”とはどういう意味ですか?


「他にも5人いるから、貴方がたを含めて召喚者は10人ね。ようこそ、探究者の村へ。私はここのリーダーを任されている樋室紗耶華ひむろさやかよ。先に答えておくけど私もかつての反乱の生き残り。ここに来て、もう33年になるわ」


 なるほど。樋室紗耶華ひむろさやか坪ヶ崎雅臣つぼがさきまさおみ、それに平八へいはちさんがここの中心メンバーと考えて良いわけか。

 それにしても、探究者の村か。反乱者や反逆者とは名乗らないところに、何か複雑な関係を見た気がした。


 それにしても4年前の……いや、もう5年前か。その時の反乱で、当時の召喚者は一掃されたという。つまり、当時体制側に居た10人を除くと、この二人以外は全員最長でも5年となるんだな。

 そしてこんな所に身を潜めて以来ずっと、召喚者の為に様々な研究を続けて来たのか。本当に、心の底から頭の下がる思いだった

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