第107話 もうさっさと話が進んでいる

 そのまま俺達は無人の民家に案内された。

 一階建て、平屋のログハウス。入ってすぐがリビングの質素な造り。

 視界の範囲に台所もあり、本当に小さな建物だ。


「奥には部屋が2つと浴槽がありますが、部屋の一つは物置として使うのがよろしいでしょう。もうベッドは大きな物を運び込んであります」


 いきなりサラッと凄い事を言ったな。

 さっきの妄想が更に膨らんでしまいヤバいくらいだ。

 ん? というか浴槽?


「浴槽ってあの風呂か?」


「他に何があるんです? 私はもう用は無いですよね? 先に入浴を済ませたら少し休ませてもらいますよ」


 そう言うと、もうセポナは我が家の様に堂々と中へと入って行った。


 「敬一けいいち様もご一緒します? そうなさるのでしたら、先方にはわたくしから話を通してきますが……」


 ああ、ダメ。想像の翼が悶々と広がり過ぎる。が――、


「いや、今は良い。休みたい気もあるが、先に色々と知っておきたいんだ。もう向こうは待っているんだろ? ただひたちさんは疲れているのなら――」


「いいえ、敬一けいいち様がそうなさるのでしたら、案内するのがわたくしの務めです。それでは参りましょう」


 俺が興味津々の様に、向こうも俺を知りたいはずだ。全員とは言わないが、もう待ちわびている頃だろう。

 そう考えれば、ダークネスさんのお言葉に甘えてばかりはいられないよな。





 続いて案内されたのは、石造りの2階建て。大きさも、さっきのログハウスよりも随分と広そうだ。

 扉は見た事もない金属製。よく見れば、石と石の間も金属で補強されている。かなり堅固な造りだな。


「ひたちです。敬一けいいち様をお連れ致しました」


 ひたちさんが扉の前でそう宣言すると、扉からカシャカシャと機械音が聞こえてくる。

 多分ロックでも外したか? 見た目だけでなく、警戒心も堅固な様だ。


 入ってすぐの部屋にはイスやテーブルが置かれ、3方には扉があった。

 ここも入ってすぐにリビングか……と思ったが、そうでもなさそうだな。

 ここは単なる待機場所。そう言って良い程に質素な造りだった。

 そして目の前の扉には、平八へいはちさんと一緒にいた双子が待機していた。


 相変わらず黄金と言って良い程に金属的ながら、とてもきめ細かい髪をツインテールにし、体は薄黒い透けた霞の様なドレス。透けて見えるフリルたっぷりな下着もあの時のままだ。

 しかしこうしてみるとアレだな、この子たちは本当に子供って体形だが、セポナは背が低いけどちゃんと大人って感じがする。

 ……と、今のうちに心の中で言い訳しておこう。


「「どうかなさいましたか?」」


 無表情のまま双子が訪ねてくるが、こっちの話だ。


「いや、問題ない。それよりも……ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんはその奥かな」


「はい、こちらでお待ちです」

「他の方々もお待ちです」


「さっさと入ってくださいませ」

「もうどのくらい待ったと思っているのです?」


 ……こいつら客に対する礼儀をもっと学んだ方が良いんじゃないか?





 入った先は何というか、一言で言うのならそのまま出ていきたい部屋だった。

 足の踏み場もないほどに散らばったブツ。ゴミと表現しないのは、変な像だったり、石板だったり、この世界にもあるんだと感心するような裸電球だったりとバリエーション豊かで、価値がさっぱり分からないからだ。というかさ――、


「これ、踏んで良いのか?」


「ああ、気にしないでくれ。ただ、ちゃんと硬そうなところを歩くようにね」


 目の前にいた3人の一人が、どうでも良いから早く来るようにといった感じで手招きする。

 いや、あんまり歩きたくないな。よく見れば、ムカデや黒い昆虫に似た何かが隙間を這いずり回っているし。

 だけどここに立っていても物事は始まらない。覚悟を決めるしかないだろう――嫌な覚悟だが。


 部屋の中央にはアルミのような質感の机と椅子が置かれ、そこには既に3人が席についていた。

 一人は当然ながらブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんだ。双子がいたのだから、今更言うまでもないか。

 この人も個性的ではあるが、他の二人もそれに劣らぬ面々であった。

 全員が召喚者だと紹介されたら、「嘘だ!」と答える自信がある程に……、

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