【 探究者 】

第106話 この環境は全く予想していなかった

 こうして数か所の縦穴を開けてショートカットをする事数回。数日のうちに、荘厳な扉のある場所に到達した。

 まあ周囲は相変わらず苔むしたような風景だけに、場違いな事この上ない。


「ここもセーフゾーン……なんだろうが、また地下の町なのか?」


「いや、そうではない。ここは我らの――そう、隠れ家のようなものだ」


 突然に後ろから声を掛けられて驚いたが、そこに居たのはクリムゾン・オブ・ザ・ダークネスさんだった。


「お久しぶりです、クリムゾン・オブ・ザ・ダークネスさん」


「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスである。もう呆けたか」


 やばい、素で間違えていた。いったいつから間違えていたんだろう。


「お久しぶりでございます、ブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様。ただ今帰還いたしました」


「ご苦労」


 あ、ずるい。普段は平八へいはちさんって呼んでいるのに。

 だがそんな事をチクっても何の得にもならないだろう。

 俺は素直にブラッディ・オブ・ザ・ダークネス――いいや、平八へいはちさんの開けた扉から中へと入った。

 というか、騎乗したままどうするのかと思ったら馬がパコンと蹴り開けたぞ。案外いい加減だな。





 中に入ると更に扉。それを開けるとまた扉。なんだこれはコントか? なんて考えもするが、当然ながらセキュリティだろう。

 さすがに入ってすぐに玄関や居間だとは考えていないよ。

 そして10数枚の扉を開けた先には、信じられない光景が広がっていた。


「これはどういう事なんだ?」


 天から差し込む眩い光。ジャングルの様に密集した緑の木々。出てきた扉は切り立った岩盤に付いており、少し離れた所には滝、そして川がある。

 周辺の草木は切り払ってあり、幾つもの石造りの建物が並んでいた。


「ようこそ、敬一けいいち様、セポナ様。ここがわたくしたちの拠点です」


「我は先に行く。ああ、これは持っていくぞ。主等ぬしらは休んでから来ると良い」


 そう言った平八さんの左手には、いつの間にか例の時計があった。

 当然、俺の腰には無い。いつの間に!?





 馬でさっさと行ってしまった平八へいはちさんの後を追う様に、てくてくと町の中を進む。

 いや、規模的には村か? 平屋が多く、2階建ては少なそうだ。

 どの家も当たり前のように屋根がある。まあ当然か。これだけの緑があるのだ。それだけの雨も降るのだろう。

 それにどう見てもこの世界の人間だろうと思われる、青やピンクの髪をした人間がいる。


「確かダンジョンの外に通じるセーフゾーンは一か所じゃなかったのか?」


 言うまでもなく、あの扉がそうだったのに違いない。


「それは正しいのですが、実はいくつかこういった場所もあるのです。ですがここは知られていませんし、仮に見つかってもロンダピアザの様な町が作られる事はありません」


「理由を聞いて良いかな?」


「ズバリ言ってしまうと、使い物にならないからです」


 意味が分からない?


「大変動によって変わりますが、ロンダピアザから1週間以内に到達できるセーフゾーンは100から200程です」


「え!? そんなにあるの?」


「もちろん町として使えるほどの規模はそれほど多くはありません。ですが大変動が近くても安心して休息できる場所はとても価値があります。なにより、それらのセーフゾーンから更に他のセーフゾーンへと無数に繋がっていくわけです」


「例の鍾乳洞は3か月ルートだったけどな」


「だからこそ、あのような場所に選ばれたのでしょう。普通は長くて1か月程度です。ロンダピアザが銀河の中心とすると、あの場所は地球といった感じの場所です」


「端っこの方って訳か」


 今回は俺のスキルでショートカットしまくりだったからあまり気にしてなかったが、確かに休息はそれっぽい場所が多かったな。

 そうか、実際にはそういった点と点が結ばれて迷宮ダンジョンが構成されている訳か。今更だけど、構造が分かって来たな。


 というか、ひたちさんってそっち系が好きなのかな? 今度そんな話もしてみよう。

 一瞬ベッドの中で語り合う自分を想像してしまい頭を振る。

 今の俺は奈々なな一筋ですと言えるのだろうか……いや無理だな。当然か。もう二人も女性を抱いてしまった。それも何度も何度も何度も……あれから数えきれないほどに。


「そしてここが使い物にならないのは、繋がるセーフゾーンは精々2か所程度。しかも何処にも繋がっていない事の方が多いからです」


 悶々とやらしい想像をしていた俺の事等お構いなしに話は続いていた。

 集中しろ俺。

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