第105話 いつか全てが上手くいく事を願う
ラーセットの首都ロンダピアザを出ると、そこには美しい大自然が広がっている。
首都周辺は幾つかの小さな町や村はあるが、人口の99パーセントは首都に集中。他に大きな町などは存在しない。
それは宗教的な意味合いもあるが、やはり
新たに出現した
外の世界は、また人類が見た事もない
だがそれよりも、ある意味更に凶悪なモノが存在する。
ロンダピアザから南西に80キロメートル。
人の入らぬこの周辺は、起伏にとんだ山々と、そこに自生する多種多様な木々や動物たちが生息している。
だが今、そこには血なまぐさい臭気が漂い、それを求めて無数のモンスターが徘徊する状況となっていた。
「全く、実に愚かな事だ」
「おそらくは様子見。牽制の類ではないかと」
「3万はいましたけどね。でもまあこれで、イェルクリオの連中もラーセットが健在だと分かったでしょう」
「北のマージサウルもな。全く難儀な事だ。結局、どんな世界でも人は人を襲わねば気が済まぬ性なのか……」
無数に散らばる人間の死骸。それらを喰らう
だが確かに声がする。よく見れば、空気の揺らぎのような柱が幾本か立っていた。それはまるで陽炎の様だ。
「健在をよりアピールするためにも、そろそろ秘宝を取り返した方がよろしくはなくて? 新たに召喚者も呼べない状況では、また他国に隙を与えるだけでしょう」
「召喚者の力があってこそ成り立つ小国だからな。同時に、その召喚者こそがこの事態を招いたともいえる。彼らが与えてくれたもの――それはあまりにも絶大だ。他国が100年で集める富を、僅か1年で集めるのだから」
「今こそ、その財を得る好機。同時にあわよくば召喚のシステムもというところか」
「そのような事はさせぬよ。この国は、もう我らの子供……いや、孫のような存在だ」
「実際、当時の友人たちには何人も孫がいるよ」
まるで凄惨な現場では無いように、複数の楽しそうな笑い声が響く。
「なればこそ、そろそろ
「いや、まだ様子を見る」
「……理由を聞こうか?」
「あれは可能性だ」
「悪い方に
「まだ結論を出すのは早い。私は期待しているのだよ。もしかしたら、嘘は誠になるかもしれぬ。その為にも、彼等の元に居た方が良い。その為に放置したのだ」
「帰りたい人間は本当に帰してやりたいか。しかし話を最初に戻すが、このまま召喚者が減り続ければ、南北の大国は大挙してここを落としに来るぞ。それだけのリスクを負っても、手に入れるだけの財がもうここにはあるのだ」
「話し合う事は出来ないものかしらね」
「今のままでは不可能だな。両国にしろ、彼等にしろ、我々に連中を信じさせるだけの信頼も根拠もない。根の深さは言うまでもないだろう」
「よし分かった。このまま話し合っていても何も解決はしない。今必要なのは、とにかく召喚システムの再構築だ。違うか? それを何とかしなければ、遠からずまた万単位の死者が出る事になる。とにかく秘宝が最優先だ。これ以上召喚者が減るような事になれば――」
「分かった。その時は任せる事になろう。だが暫く召喚者の行動は制限し、死亡は可能な限り防ぐ。まあそれは、彼ら自身が行っているがな。それでも危機的な数にまで減ってしまったら彼らを殲滅し秘宝を取り戻す――それで良かろう。それと、眠り姫の方はどうなっている?」
「問題はない。あれが軌道に乗れば、少しはお前の負担も軽くなるのだがな」
「そのためにも秘宝でしょう? 全てはアレが無くては始まらないわ」
「それよりも、評議会は粛清部隊を出す様だ。あちらはどうする?」
「秘蔵部隊のお出ましか。だがロンダピアザからあまり離れる事は無いだろう。何せ虎の子だからな。
「では我らも戻るか。願わくば、いつまでも平和が続く事を祈る」
「死者に黙祷を」
★ ▼ ★
もうどのくらいこの迷宮を歩き続けたのか。追手は来なかったが、途中で
「
「随分近かったな。もっと遠いと思ったよ」
ちょっぴり強がりました、ハイ。
でも多分顔に出ていたな。それ程嬉しい情報だった。
「
「もうそんなに経過していたのか。何と言うか、時間の感覚が曖昧だってのはこういう時は不便だな」
「召喚者様は良いですよねー。私はもう23歳になっちゃいましたよ」
そういえば、セポナは普通に歳を取るんだな。
もう23かー……とは思うが見た目は全く変わらない。
「今何か、失礼な事を考えませんでした?」
「いや、そんな事は無いぞ」
もしこのままに何も解決できずに時間だけが過ぎて行ったら、彼女はどうなるのだろう。こんな穴倉の中でおばあちゃんになってしまうのだろうか……。
まあ地下住人は結構いるみたいだけどな。だけどこの境遇にしてしまった責任は、どうにかしなきゃなとも思う。
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