第104話 かなり長いこと歩いたが

 それから2か月。地上から地下に戻って、これで4か月か。

 上の復興はまだまだ先だろう。とはいえ、あれだけの建築物を作れる世界だ。案外もう終わっているかもしれない。


「こちらはまだ着かないのか?」


「かなりショートカットしていただきましたが、かなり遠い所に拠点を設けておりましたので」


 まあ、半年くらいの距離でも勇者が来ちゃうんだしな。召喚者相手と考えると、相当に複雑で遠い場所と考えるのが妥当か。

 あれ? そういえば――、


「初めて会った時に思ったけど、何であそこにダークネスさんがいたんだ?」


「実際は結構探し回ったそうですよ。ですが、あの時は目的地への早期到着が最優先でしたでしょう?」


「危険度が低かったから、俺が避けなかったって訳か」


 違うか……本能が求めたんだ。あの時点じゃ、求める答えに届かない事が分かっていたから。


「ただ移動の方だよ。まさかあの馬であそこを走破してきたわけじゃないだろう?」


平八へいはち様は……そうですね、テレポートとでも言いましょうか、長距離の移動が出来るのです」


 何それ超便利。是非やりたい!

 ……と、平時なら食いついたかもしれない。

 だけどその時のひたちさんは、あまりにも沈痛な面持ちだったんだ。


「ついでに言いますと、メンバーの位置を入れ替えるスキルを使える方が仲間にいます。それでわたくしめが、代わりに敬一けいいち様の元へと赴いたのです」


 ああ、そんなことを言っていたな。

 それで先ず平八へいはちさん……じゃなかった。クリムゾン・オブ・ザ・ダークネスさんが来て、そのまま入れ替わったという訳か。


「そういえばあの時、本人の希望だって聞いたな。ひたちさんは、俺に何か用が――」


 いや、これはあまりにも間抜けな質問だ。用事は明白。あの場所を探していたからだろう。

 だからあえて言い直した。


「何か興味でもあったのか?」


「それは興味津々でした。同時に、その人格には多少の不安もございました。その点に関しては、改めてお詫びいたします」


「良いよ。あの時点で召喚者を二人。現地人も何人殺したのか分からないくらいだ」


 というか、セポナの前ではあまりしたくない話ではあったが、元凶が俺なのだから逃げるわけにはいかない。

 余計な事を聞いてしまったという想いが、針のむしろとなって巻きついてくる。


「本当にお気になさらないでください。実際、わたくしたちは貴方を利用するために向かったのですから」


「まあそれはお互い様だよ。もし俺一人だったら――あ、セポナもいたが、とっくに死んでいるか狂っている。それに俺だって帰りたい。何か協力できるのなら、喜んでやるさ」


「そう言って頂けると本当に助かります。実際抱かれに行ったわけですので、それなりの覚悟と恐怖があったのです。今は心底安心しておりますわ。自分の女を見捨てはしない事は、セポナ様の件でも分かりましたし。これからも、末永くよろしくお願い申し上げます」


「いやちょっと待て」


 予想と大分違う。つか違い過ぎる。


「まあ言ってはおりませんでしたが、わたくしは敬一けいいち様を篭絡ろうらくするために参ったのです」


 そういえば今更だが、呼び方が成瀬なるせ様から敬一けいいち様になっている。

 切り替わったタイミングは言うまでもない。事後からだ。

 しまったよ、この人そういえばメイド風で一歩引いたように見えるが、実際には女性上位の家の人だった。当然の様に、旦那さん……というかひたちさんのお父さんも、こうやってじわじわと尻に敷かれていったのだろう。


「全く予想すらしなかった話だよ。鍾乳洞での事は、もしかして誘っていたのか?」


「もちろんです。当然やり捨てにされる事も覚悟はしておりました。その――恋人がいる事も知っておりましたし。ですが結果は結果でございます。ご安心ください。たとえ奈々なな様とよりを戻されましても、”先”を主張するつもりはございませんので」


 そいう言ってぺこりとお辞儀をする。メイド服だとかなり萌えという感じだが、黒いボンテージに棘だらけの鞭では威圧感しか感じない。

 まあ篭絡ろうらくに関しては失敗だったのだろうが、結論から言えば俺は協力するしかなかった。

 だからひたちさんがどうこうする必要は無かったと言えるが、地上から戻った後、果たしてセポナだけで俺の暴走を抑えられただろうか。

 多分無理だ。というか、おそらく最初の相手はひたちさんだっただろう。その辺は覚えていないが、ほぼ確実だな。”先”ってのは、まあ言葉通りの意味だ。


 まるで綱渡りの様な状況だが、かろうじて渡れているのはこうした様々な想いと偶然が上手くかみ合った結果なのだろう。

 運が良いのか悪いのか複雑な気分だが、今はこうして生きている事を、改めて二人に感謝しなくちゃいけないな。

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