第96話 もしかしたらなんて期待が無かったわけじゃないんだ
サングラスの男は腕を組んだまま沈黙している。
なら他二人はどうだ? 何か思う所があるんじゃないのか?
そう期待していたのだが――、
「しらねーよ、そんなもの覚えてねーよ!」
バールのようなものを持った男は、そいつをぶんぶんと振り回しながらそう宣言した。
やばい、なんかコイツ論外に馬鹿っぽい。
も、もう一人は――、
「あの女、こいつの奴隷です。あいつさえ殺せばOKで――」
そこまで言ったところで、思わずそいつの心臓に短剣を刺してしまった。
移動の手間を外したから、瞬間移動の様だっただろう。
自分に何が起きたかも理解できず、大量の血を吐き出しながら、口をパクパクさせたまま事切れた。
いや、交戦の意志は無かった。それは本当だ。
だけどこいつはセポナを目標に定め、何かスキルを使う気配を見せた。もうそれだけで十分だったんだ。
だがそれより、短剣を抜くと、死体はどさりと音を立て地面に倒れ込んだ。
今までと違う、俺はこの目で見たし、ひたちさんからも聞いた。この世界で死ぬと、体は光に包まれ消えるのだと。
そして、その死体の行き場も突き止めた。だがこれは何だ!?
「状況が理解できたかな? 今やこの国の人間だけではない。全ての召喚者が君の命を狙っている。誰もが死にたくはないのでね」
こいつを殺してしまった事に後悔はない。だが状況の変化は俺を混乱させた。
なぜこうなった?
この世界で死んでしまったら本当に死ぬ。現実世界には帰れない。そんな事は、今更の話だ。何も変わらないと思っていた。だけど、これは違う。
もしかしたら、あのアイテムや安置されていた塔は死の苦痛を和らげ死体を運ぶ機能もあったのか?
だとしたらマズい。非常にやばい。あれは只の召喚システムで、実際にはこの辺りは変わらないと思っていた。
死んだら光に包まれて消える。そしてあそこに送られる。
だけど周りも本人も、『ああ、これで帰還か』みたいな感じで納得して終わり。ところが、これではそうはならない。
これからは、現地人のように普通に死ぬ。ゲームとは違う。死にたくないという悔しさと未練と怨嗟に満ちた死だ。
そして残った死体を見た人間は思うだろう。俺さえいなければ。俺が秘宝を盗んだりしなければと。
間違いない。もう既にアウトではあるが、これから時間をおけば更に悪くなる一方だ。
それにしても――、
「今のはちょっと仕方なくてな。こちらも死にたくないし、仲間を殺されたくはない。だが、話し合いは決裂かな?」
動揺を外し、務めて冷静に話しかける――が、
「安心したまえ。元々話し合いの余地は無いのだよ」
――まあそうだろうな。
何となく察してしまった。こいつはそもそもの状況を知っている。その上で、俺を始末しに来たんだ。
「よくも! よくも
なんて考える間もなくバールのようなものを持った男が、獲物を振り回しながら迫って来る。
こいつも召喚者だ。何らかのスキルを発動している。
しかし目の中に光る紋章の様なものは弱い。たしかあの光は強さが云々と説明してもらったけど、それはいわばスキルのレベル。スキル自体の強弱は別問題だ。油断は禁物――!
なんて思っていたのに、振り回していたバールごと俺はこの男を袈裟斬りにしていた。
「さだ……あき……」
崩れ落ちる男を見ながら、肩に乗った罪悪感を振りほどく。
「どういうつもりだ?」
「どういうとは?」
「仲間じゃないのか? どうして手を出さない。助けようとしなかった。それにどう考えても弱すぎる。こいつらはただの素人じゃないか! なぜ連れてきた!」
「それは面白い質問だ」
サングラスをクイッと持ち上げる。
「手を出して欲しかったのかね?」
「いやそういう訳ではないが……」
分からないし読めない。俺を殺しに来たのはこいつだ。しかも余裕や立ち振る舞いからして、リーダー格に間違いは無い。
いや、もしかしてあれか? 実は同じ志を持っているんだけど、あの二人が見張りで自由に行動できなかったとか?
実は戦いたくなかったとか?
だとしたら、見殺しにしたことも納得できる。
「
そんな俺の甘~い期待を、奴のスキルがあっさりと打ち崩した。
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