第95話 一目見て怪しいと思ったよ
「賭けは私の勝ちだな」
開口一発、緑のサングラスの男がそういった。
何だコイツはと思うが、ある意味不意打ちだったので声が出ない。
とにかく先手を取って口論に持ち込もう。交戦状態に入る前にだ――と外に出たとたんに、俺達は三人の男に囲まれていた。
向こうの方が一足早かったと褒めるべきだろう。
見たところ、サングラス以外に身に付けているのは白とブルーの縦縞スーツ。どう見ても鎧としての効果は期待できないが、それは初代ダークネスさんの剣を折ってしまった戦いを思えば意味が無いだろう。
あんなブラが透けて見えるほどに薄くてひらひらのシャツすら切り裂くことが難しかったのだから。
背は俺より高い。180センチを超えているか?
オールバックにした黒髪に、どこかアラブ系が入ったような深い顔立ち。男の俺から見てもハンサムだ。
それにスーツの上からでも、鍛えられた均整の取れた筋肉が見て取れる。
どう見てもこいつがリーダーだ。
というのも、この堂々たる立ち振る舞いに対し、残りの二人は余りにも頼りない。
というか、一人は見覚えがある。
黒髪でどことなくヤンキー風。俺の学校の生徒ではないが、あの日一緒の召喚された14人の中に混ざっていた。
スキルは……覚えてないや。
かなり重そうな
着こなしの様子からも素人と分かる。
武器はなんだろう……バール?
いやどんな力を秘めているか分からないけどな。
もう一人は知らない顔だが、多分歳は俺と同じくらいだろう。
そして、ここに来てからの日数もそれほどじゃない。
俺と同じような薄手のレザーアーマーに、扱いやすいが大きな中型剣。両手でも片手でも扱えるバスタードソードの類だろう。
革のメットも付けているあたり、慎重で戦いの危険さは知っていると思われる。
ただ何処からどう見ても素人。衣装も馴染んでおらず、コスプレ感が強い。
それにしても、正直ここまで手際が良いとは思わなかった。
最初から
地上からの追手だとしたら、相当な手練れだ。何せ直進ルートで所々塞いできたのだから。
というか、いきなり賭けとか言われても意味が分からないし。
「初めましてだな。一応、そちらの用件を伺って良いか?」
「そうだな。私は
「処刑とはね……そこは元の世界に帰すじゃないのか?」
「君がアイテムを奪い、塔も破壊し、神殿までをも倒壊させたため、現在召喚者は帰れない事になっている」
『事になっている……』か。こいつは状況を知っている感じだな。
しかしお付きの二人は意味が分かっていない様だ。何の反応もない。
この男に従っていればそれでいい……そういった態度だ。言っている内容も半分くらいしか頭に入っていないのだろう。
「これはもう言い訳できるレベルの話ではないのだよ。よって、君の処刑は確定事項だ。君自身、あの時点で追われる立場になる事も、ここでの死が本当の死となる事も理解していたのであろう?」
サングラスをクイッと上げるが、白々しさを通り過ぎて呆れてしまう。
だが無駄だと思っても、試す価値はある。
「あのアイテムや塔が無くても、俺達は帰る事なんか出来ないよ。全ては嘘っぱち。俺達をアイテム集めに働かせるための方便さ」
「ほお……では君はそれを証明できるのかね? 今ここで」
「いや、ここで証明することは出来ない。ここでなくてもやりたくは無いね。なにせ帰れない事を証明する事は、誰かをまず殺さなければならないからな」
「話にならぬという事だな」
「いや、待ってくれ。それでも一つ、重要な手掛かりはあるんだ。君達が召喚された日。それは何月の何日だった?」
そう、全ての糸口はここにある。俺達はもちろん、ずっと以前に召喚されたひたちさんやダークネスさんたちも、2032年の5月28日に召喚されている。
それ以前に召喚された人間はいないし、その後に召喚された人間もまたいない。
なら最初に説明された、”帰還して成功した有名人たち”とは何だったのか? 誰がそれを確認したのか? 少し考えれば嘘っぱちだと分かる。
俺達は騙されていたんだ。
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