第73話 賭けの行方 2
ここは高度4500メートルに達するビルの屋上。その上には今、4人の人間が立っていた。
いや、一人は人間と呼んでいいモノなのか。それ程に異質な存在だったのだ。
漆黒の鎧を纏い、黒い馬に跨った騎士。全身から発せられる気は、常人の精神を破壊しかねないものだ。
もし不慣れな召喚者が迷宮で出会ってしまったら、直ちに逃げるか、それとも本能で攻撃してしまうか……もちろん、後者が辿る結末は言うまでもないだろう。
「貴様が我らの前に姿を現すとはな、その――ダークネス・オブ……」
「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスである。貴様らの脳は既に汚染され過ぎているのではないか? 他者の名を覚えるのは、人としてのコミュニケーションの基礎中の基礎であろう」
「お前にだけは言われたくねえな」
その言葉が届くより早く、金髪の男は黒騎士の後ろに移動していた。手にした武器は何もない。只の素手。しかしその一撃は空気の膜を破り、激しい衝撃音を立てて襲い掛かる。
閃光が如き移動に音速の拳。早さこそがこの男――
だが、その一撃は霧散する。正しくは威力がだ。
音もなく、ファサッという擬音が似合いそうなほど優雅に黒い霧のマントが現れると、その一撃の威力全てを消失させたのだった。
「ちっ!」
舌打ちをした時すでに、
もう用事は終わりと言わんばかりの彼を制し、サングラスの男が前に出る。
「まあいい。貴様が出しゃばって来るとは正直意外だったよ。てっきりもう出てくることは無いと思ったのだがね」
「組織を捨て、使命を捨て、仲間を捨て、私達を捨て――人をも捨てた男。今更何の用?」
「なに、面白そうな話を始めていたのでな。その賭け、我も一口乗らせてもらおうと思って来たのだよ」
「ほお」
「
「言うまでもねぇ、そいつの権利は失効だ。次は俺が――」
「私の番でしょ? 単細胞。彼の抹殺指示はもう出ている。ただすぐに終わらせたら退屈。これは地上組の私たちにとっては久しぶりのゲームだから」
「なるほど。ではもう一つ加えよう。
「それは私たちにとって得るものがない。賭けの対象にはならない」
表情は分からない。だがその言葉を待っていたかのように腰の剣を抜く。
それは鎧と同じように黒く、そして一切の光を反射しない完全なる闇であった。
「久々に、貴様らに生きる実感と恐怖を刻み付けてやろう。来るがいい、
「……フランソワ」
少女がピシッと訂正する。何人も口出しできないような迫力で。
「む……いや、
「フ・ラ・ン・ソ・ワ。……名前はコミュニケーションの基本」
「――良いだろう。では参ろうか」
超高層建築の屋上で、何かが爆発したかのような轟音が響く。
だがそれは、高さと強風により誰にも知られることは無かった。
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