第72話 賭けの行方 1
ここはラーセットの首都ロンダピアザ。首都とは言っても、このラーセットにはロンダピアザしか街は無い。
その内の一本、高度4500メートルのビルの上に3人の男女が立っていた。
男が二人。女が一人。
「あれま、ありゃあ大神殿の方に行ったぞ。冗談だろ? 馬鹿なのか?」
そういったのは
「絶対にそのまま
そう言って、本当に悔しそうに地団駄を踏む。
「普通は恋人の元に行くだろ? あんな行きずりの女の何処が良いんだ? それともあれか? 実はもう恋人以上の関係ってやつだったのか?」
「ならば素直に帰したりはしないだろう。まあ今更どうでも良い。賭けは俺の勝ちだな。大体、最初に選んだのはお前だ。それも人となりを見てくるといって、接触した後で決めたのだろうが」
そう答えたのは大学生くらいか。上背は180センチに近く、なかなかの長身だ。
黒髪に黒い瞳。何処から見ても召喚者。ただ緑色をしたサングラスを掛けており、実際には瞳の色はハッキリしない。
服は白と青の縦縞スーツ。こんなのを着るのはヤクザくらいのものだと周囲からからかわれるが、当人に気にする様子は無い。
立ち振る舞いは完璧に決まり、言葉もはっきりとして淀みがない。それだけで、いかにも優等生然としたリーダーシップが感じられる。
「
スーツの男の言葉に続けるように、すぐさまもう一人が追加する。
こちらもいかにもな召喚者――というより日本人だ。
背は150センチほど。おかっぱ頭が童顔に似合っており、中学生のようにも見える。
上は丈の極めて短いセーラー服だが、微かに見える下乳はささやかなものである。
下は純白のプリーツスカート。さすがにこの高度より高い壁に囲われているとはいえ、4500メートルもの高さを流れる風は強風だ。スカートなどまるで意味を成さず、めくれ上がって体に張り付いている。
当然、リボンと宝石の付いた紫色のパンティーはもろ出しとなっていた。
だが当人に気にする様子は無い。まあ気にするのなら、最初からこんな格好で此処には来ないだろうが。
仮にその様子を見て笑うものがいたとしても、その両手に持つ物を見れば黙るしかないだろう。
それはまるで、彼女の全身を覆えるサイズの巨大カイトシールドの様にも見える。
ただ取っ手が付いており、両端から先端に掛けては鋭くエッジが効いている。
無骨な、そして明らかに超重量の剣を2本、平然と持っているのだから。
「うるせーよ。なら次の賭けだ。あいつがお前の攻撃を生き延びて大神殿を出られるかどうかだ」
「それはあり得んな。俺が討ち漏らす事態など存在しない。在るとしたら――」
そう言って二人を見ると、
「お前たちが賭けを反故にして手を出した場合か――」
「そいつはねーな。俺達の賭けは絶対だ」
「たとえそれで誰かが死ぬ事になっても結果は守る。それが私たちのルール。だからこそ聞きたい。なぜそんな事を今更言うの?」
「そうだな」
そう言って緑のサングラスをクイッっと上げる。
「もちろん、それは無いだろう。だがもう一つ……それどころではなくなった場合も有り得るのでな」
いうが早いか、くるりと回って空いている方で何かを投げる。
何も持っていなかった。
何も飛んで行かなかった。
そこには何もいなかった――だが、キンッという乾いた金属音と共に、十字架の様なダガーが水滴となって弾け飛ぶ。
「ご挨拶だな。少し旧交を温めに来ただけだというのに」
「旧交だと……よく言う」
確かにそこには何もいなかった。だがそこから現れたモノは、明らかに異様な存在であった。
完全武装した、騎乗した騎士。全身を漆黒の鎧で覆い、その仮面には一切の穴が無いのっぺらぼう。
体全体を包むような黒い霧は、この強風にもかかわらず意志があるようにゆらゆらと揺らめいている。
それだけでも場違いなほどに異常だが、特異なのはそのオーラ。普通の人間であれば、その発する気だけで立ち竦むかへたり込んでしまうだろう。
それ程の威圧感を撒き散らしていた。
だが、3人に動揺は見られない。
彼等もまた、それなりの死線を潜って来た者たちなのだから。
「お前が地上に来るのは珍しいじゃねえか。ダーク・オブ・ブラック」
「貴方が迷宮に潜って半年以上が経っているけど、きちんと大神殿に成果は納めたのかしら? シャドー・オブ・ザ・クリムゾン……クレムリンだっけ?」
「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスだ」
不気味な黒い騎士は、そう宣言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます