第63話 迷宮内にも町なんてあるんだな

 翌日。新たな木箱が柱の外に置かれていた。

 そういや、セーフゾーンには送れないって言っていたな。

 しかし今更だが場所が正確だ。


 地図もないし互いの位置も見て判断しているとは思えない。

 GPSのようなスキルかアイテムか……聞いたら多分答えてくれるだろう。

 まあ拒否されても傷つきはしないけどな。それに、聞く気もない。無用な事を知ってはいけない。

 俺が上に行くと言う事は、それだけのリスクをも考えてすべき事なのだから。


 木箱の中に入っていたのは、俺がリクエストした通りの代物だった。

 動きやすい革っぽい材質の鎧。胸元と腰、それに手と足を覆う分だけ。丈夫さは大切だが、出来る限り薄くて軽いものにした。

 色合いも普通。セーフ!


 平八へいはちさん……じゃなかった。ブラッディ以下略さんの見立てだと、絶対に投げ捨てていく羽目になっただろうからな。

 それに現地人のシャツ。それにフード付きのマント。ベルトにポーチ、いつでも外せる肩掛けの袋。水筒その他、これから上に行くための必須品だ。


 早速着替えるが、まだまだ自分に馴染んでいないのを実感する。これはコスプレだな。

 だけどまあ、次第に慣れるだろう。だけどこんな格好をした龍平りゅうへいに出会ったら、お互いに噴き出す自信があるぞ


「あの晩も思いましたが、高校生とは思えないほどに鍛えられていますね。それも何かのスポーツとも言えませんし、ジムで作った体とも見受けられませんが……」


 そういや、女性陣が居るのに構わず着替えてしまったな。

 そういった感覚が鈍くなっているのだろう。


「自己流だよ。何かのスポーツに打ち込む余裕もなかったし魅力も感じなかったんでね。ジムに通う金もなかったから、家で勉強の合間に鍛えていたんだ」


「それででしたか。ですがそれにしては、かなりしっかりとしていますね」


「ただやっても仕方ないからな。一応は調べたからな」


「納得です」


 そういってほほ笑んだひたちさんは、どこか満足そうだった。


「それと、わたくしの知る限りかなり大きいと思いました。もっと自信をもって、積極的になってもよろしいかと存じます」


「存じないでください」


 言いたい事はわかったが、俺は奈々なな一筋なんだよ。

 当然、童貞を捧げる相手も以下同文なんだ。





 軽く食事を採りながら、今後の事を話し合った。

 とはいっても、もう最初から決まっている。ただひたすらにセーフゾーンを求めて彷徨さまようしか手段がない。

 その間に水と食料も現地調達だ。

 俺はダンゴムシを食べればいいが、この二人はそうはいかない。

 食えるモンスターを見つけて食わなきゃならない訳だ。どっちがモンスターなのか分からないな。


「それで地上まではどの位かかるんだ? いや、距離や時間なんかは分からないだろうから概算で良い。コース的なものだな」


「そうですね。こういった明確な名前の無い小型のセーフゾーンを越えながら、当面は近場で最大のセーフゾーン『レルメデス』を目指すことになります」


「あ、あたしも行きたい! 久々にベッドで寝たい! 食料も補充しなくちゃ!」


 セポナが勢いよく食いついた。

 大きくて名前付き……当然、こんな閑散な場所では無いのだろうが……。


「どんな場所なんだ?」


「一つの町と言ってもいいでしょう。広く、また大変動による地震の影響も少ない場所に作られます。地上に比べて治安は悪いですが、召喚者に仕掛けてくるような人間はそうはいませんので、安全性は高いと思います」


「ふむふむ」


 地下街の治安が悪いのはどんな世界も共通か。

 そりゃ犯罪者も流れてくるし、重要性を考えれば衛兵なんかも少ないだろう。


「人口は1000人を超えていると思います。多くは加工屋、運び屋、売春婦、魔女などですね。それに少数の憲兵が配備されています」


「職業名を聞いただけで怪しい街に思えてきたな」


「召喚者も常に一攫千金とはいきませんので、迷宮のモンスター退治やそこそこ希少な鉱石の収集も行っています。それを食料や素材に加工して販売し、また上へ運んだりする人間が必要なんです。売春婦は言葉通り。魔女というのは薬剤師の事ですが、占いなども行っているのでそう呼ばれています。後は格好ですね」


 少しおかしそうなひたちさんの様子から、大体の服装は予想できた。


「それで憲兵って言葉を使ったって事は……」


「はい。迷宮内の治安管理は軍隊です」


 だろうな。普通の治安組織でどうにか出来るような甘い世界じゃないだろう。

 その点は他国の迷宮ダンジョンと繋がる事があると聞いた時点で分かっていた事だ。

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