第62話 確かにこんなものいつまでも持ってはいられない

 そして最初のセーフゾーン。

 行きも早い感じがしたが、帰りの体感速度は更に早い。一切悩みも迷いもしなかったしな。

 そしてそこにはもう何も無かった。ただダンゴムシがいるだけだ。


「セーフゾーンにも死体漁りスカベンジャーは入って来るんだな」


「小型の虫などはもちろんですが、大型のモンスターなども侵入してきますよ。ここは間隔の狭い柱があるので大型のモンスターなどは入りづらいと思いますが、ケイブワームなどに入られたら逆に大変だと思われます」


 そのモンスターが何なのか分からなかったが、遭わない方が良いという事だけは分かったね。


「ここから次のセーフゾーンを目指して進みながら上を目指すわけか」


「そうですね。ですが成瀬なるせ様の件は知られている可能性があります。というよりも……」


「そりゃ知られているだろう。その点は予想済みだ」


「ええ、ですから直接行くのは危険かもしれません」


「だろうな。だけど裏口なんかがあるのか? 大変動の度に地形が変わるんだろ? もう地図が出来ているとも思えないが」


 スキルやアイテムがある世界だ。案外地図も簡単に……な訳はない。

 そんなに簡単なら、とっくに迷宮など踏破されているだろう。


「はい。その点は普通の召喚者達と同じように進むしかありません。手探りで道を探し。水や食料を求め、怪物モンスターと戦いながら大変動までに次のセーフゾーンへと向かう訳です。


「気が遠くなる話だな。大体次のセーフゾーンまで……」


 どのくらいかかるんだ? そんな馬鹿な質問をしそうになった自分が恥ずかしくなる。

『分からない』――ただそれだけだ。何もかも未知の世界。反対側の柱を超えたら、そんな世界に飛び込むのだ。


 だけど、それはそもそも鍾乳洞に行った時も同じ事だ。違いと言えば、そろそろ怪物モンスターへの警戒が必要になって来る頃だろうか。

 そして何より、人間――特に召喚者に出会う可能性がある。

 上に行けば行くほど。そしてセーフゾーンを超えるほどに、後者の確率は上がるだろう。

 そしてその時、俺はどんな立場を取ればいいのか……。


「俺の事や奈々ななたちの状況を知っていたって事は、ある程度上の状況を把握しているのだろう? 俺の事はどうなっている?」


「名目上は存在しない事になっています。ただわたくしたちも、全員の状況――特に政府や教団の内情までは把握できておりません。危険が無いとは保証できませんし……それに」


「もう既にスキルによる襲撃を受けている。無人機とはいえ、あの場所、あのタイミングだ。俺の事は知られているさ。だけど上層部の極一部ってのは朗報だ。指名手配とかされていたら大変だからな」


「そうですね。あとそろそろ、その武器と鎧は外した方がよろしいかと……」


 ああ、勇者セットこいつは確かにトラブルの元凶だ。今まではモンスターに出くわす危険を考えて持ち歩いていたが、確かにここに置いて行くのが最適だろう。


「それは良いが、代わりの武器や防具なんかはあるのか?」


「一応、短剣は送ってもらっています。出発の時にお渡ししておけば良かったですね」


 そう言って腰のポーチから黒い鞘に収まった剣を取り出した。

 刃渡りは70センチほど。短剣と言うには少し長いか。

 鞘から抜くと、赤と黒の斑模様をした禍々しい刀身が顔をのぞかせた。


 パチン――取り敢えず鞘に納め、見なかったことにしよう。

 なんか刀身が光っていて、黒いオーラが立ち昇った気がしたが、これも忘れよう。


「これ、使っても害は無いんだろな? どう見ても呪われていそうだぞ」


平八へいはち様の見立てですので、恐らくは大丈夫ではないかと……」


 なぜか目を逸らすひたちさん。

 ねえ、俺は本当に大事な立場なんですよね? 何処か心配になって来たぞ。


「鎧も申請すれば平八へいはち様が送ってくださると思います」


「嫌な予感がするからパスだ。普通の鎧を選べる人間くらいいるだろう?」


「畏まりました。それでどんな鎧をお望みですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る