【 地上への帰還 】

第61話 後はもう地上に行くだけだ

 そこからの行動は早かった。もうここに来た目的は達成し、後は地上に行くだけなのだから。


「さて、また普通に歩いて行けば良いんだよな」


 俺のスキルによって、目的地まで一直線。正確に言えば危険物は避けながらだが。


「いえ、まず最初のセーフゾーンまではこれを使います」


 そう言って目の前に出したのはダウジング棒のようなものだった。


「随分とまたアナログなものを持ち出したな」


「あ、違うんです。これは一度通った道を辿る為の物で、次の大変動まではこれで来た道を戻れるのですよ」


 へえ、便利なアイテムだな。

 ああ、そうだ。そう言えば、そういった魔法のアイテムみたいのを集めるんだったな。

 確か半年に一度だったか、上に提出するとか言っていた。だけど当然、探索に役立つものは自分で使う訳か。

 ――ん?


「隠れ住んでいる人とかは、半年に一度の成果提出なんかはどうなっているんだ?」


 無意味だと思うけど一応聞いてみる。ちょっとした確認だ。


「当然ですが、戻る事はございません。それに半年ルールは有名無実です。成果さえ持ち帰れば、1年後でも2年後でも良いのですよ。ただそれだけの迷宮ダンジョン生活に耐えられればの話でございますが」


 やはりな。上の連中に、俺達を遠隔操作で殺す手段は無い。まあ爆弾付きの首輪とかは無かったし。

 ただ目覚めるまでに、体内に何かを埋め込まれていたという危険はずっと考えていた。

 最初は連中の技術力を舐めていたが、やはりスキルと言う名の魔法や魔法道具マジックアイテムの存在は侮れないからな。


「あと、これをお二人に」


 そう言って取り出したのはスパイク付きの靴だ。これはありがたい。

 俺のスキルはオフに出来ない以上、出来る限り平穏な状況を保ちたかったんだ。

 さすがひたちさん、気が利くなーって、今どっから出した。

 考えるまでもない。昨日までなかった目の前の木箱からだ。と言うかいつからあった?


「その箱は?」


「わたくし達の仲間のスキルによるものです。いくつか条件が必要ですが、こうして仲間の元へ荷物を送る事が出来るのです」


「それはまた便利だな」


 ついでに中身を確認するとロープや昨日セポナが使っていた固形燃料、他にいくつかの袋なんかが入っている。結構な量を送れるようだ。


「便利ですが制限もきつくて、最初は即帰還候補だったのですよ」


「これだけ便利なスキルがか? 結構厳しいんだな」


「便利ではありますが、動植物などの生き物は送れません。たとえ死体であってでもです。それに液体も送れません」


「送ろうとするとどうする? 例えば袋や瓶に入れて」


「袋や瓶は送られますが、中身はその場に残ります」


「なるほどね、他には?」


「セーフゾーンや地上へは送れません。迷宮ダンジョン限定となります」


 寝ずの番をしていたつもりは無いが、あの後ひたちさんは布一枚を体に巻いただけの姿で、俺に寄りそうように寝た。つまり俺はお目目ぱっちり。とても眠れたもので無かった。


「つまりは水や食料は送れない。そしてひたちさんの仲間は、今も俺達の位置を特定しているって事か。それに連絡も出来ると。それにしても、ここがセーフゾーンじゃないとはね。見た限り、初めて来た時と何も変わらない。入り口さえもな。だからここはセーフゾーンじゃないかと予想していたんだが……」


「今の話だけでそこまで理解なさったのですか? さすがですね。平八へいはち様が気にかけるだけの事はあります」


 あの人かー……俺はちょっと苦手だな。

 表情が見えない人間は、ソレだけで怖い。それにあの双子……うーん。


「この場所がセーフゾーンではない事は、もしかしたら帰還の糸口になるかもしれません」


「そうなのか?」


「正確な話ではございません。ですが、新しい情報には全てその可能性があるかと」


 確かにその通りだ。

 これもまた、万里の道を進むための一歩なんだな。

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