第49話 どうせ何かあると思っていたよ

 周りの景色も地形も変わっている。

 カーキ色をした土や光る石もなく、ここは盆地でもない。

 でも目の前にある鍾乳洞への入り口の形に変わりはない。

 なんだろうか……前に見たセーフゾーンの柱を思い出すな。


「ここが……目的地なのですね」


「ああ。どうしても確認しなくちゃいけないんだよ」


 そう、素直に上に行けばもっと早かった。さっさと皆に会いたかった。再会の喜びを分かち合いたかった。

 ここに来たのも、無駄骨になる可能性が高い。

 それでも、俺はここで確認しなくちゃいけないんだ。


 入口に入るため、一歩踏みだす。

 だが――、


「ちょっと待ってください」


 ひたちさんが制服の裾を掴んで制止する。

 なんで……なんて無粋な事は言わない。迷宮こんな場所で警戒を促された時、それは必ず意味がある時だからだ。


 耳を澄ますと、カチカチと音がする。迷宮ダンジョン怪物モンスターか?

 確かに出会ったっておかしくはない。そもそも目覚めた時から会っているじゃないか。


 狭い虫の巣の様に曲がりくねった空洞。苔の様な緑色でとにかく滑る。

 戦う場所としては最悪だが、音からするとそれ程大型じゃない。

 まあここはジャンプすれば頭をぶつけそうな程に狭い。あまり大型のモンスターには出会わないだろう。

 逆に通路全体を占めるような蛇やワームのようなのに出会ったら最悪だけどな。


「お気を付けください。来ます!」


 ひたちさんが茨の様な棘だらけの鞭を垂らす。

 いや待て。ここでそんなものを振り回されても困る。

 だが抗議よりも先に、それは現れた。


 多分だが、真上から見たら六角形だろう。

 放射状に広がった6本の脚。まるでロボットのようなフォルムの多脚生物。いや、生物? これは違う。明らかに機械だ。

 上に付いているのは半透明で、青く輝く電球のようなもの。見た所武器のようなものは付いてはいないが……。


「セポナ様は下がってください!」


「え、下がるってどっち!?」


 まあ確かにそうだ。音は洞窟全体に反響し。目の前から来るのが全てとは限らない。


「取り敢えずそこだ!」


 俺はセポナの襟首を掴むと、鍾乳洞への入り口に放り込んだ。

 同時にひたちさんの鞭が風を切って唸る。

 いやだからこんな狭い所で――と思ったのも一瞬の事。鞭は壁をすり抜け、俺をすり抜け、迫り来る多脚の2体をまとめてからめとると、そのまま天井へ叩きつけた。

 正しくは叩きつけられたのは多脚の機械だけ。鞭の先端は、とっくに壁の中へと消えていた。


 同時に巻き起こる爆音と衝撃波。言うまでもない、あれが爆発したのだ。

 狭い空間を、痛い位の衝撃と熱さが吹き抜けていく。


「うわ!」


 咄嗟とっさに爆風の一部をスキルで外すが、それでも熱い。

 あまり使いたくは無いが、多分使わなければそれどころじゃないだろう。

 と言うか、エロボンテージのひたちさんは!? ……平気ですね、ハイ。


 ひたちさんの青い瞳の奥に、淡く紋章のようなものが光っている。

 そして体の方は無傷だ。鞭と防御、どちらが彼女のスキルなのだろう。

 だがそんな事を考える間もなく、左右からカチカチと新たな多脚が迫ってくる。

 地上だけじゃなく、横や天井もお構いなし。あの足で突き刺しながら進んでいるのだろうが、それにしたって不気味だ。


「あれは何なんだ! モンスターなのか?」


「スキルです。誰かは分かりませんが、地上にいる10人の誰かです!」


「そいつはまいったな。わざわざこんな所まで来たって事か。なら、俺の予想は当たっているのかもしれないな」


成瀬なるせ様もあの入口へ!」


「いや、俺は大丈夫だ。ここでひたちさんに万が一の事があったらどうにもならない。今はどちらが欠けてもダメだ」


「仕方がありませんね」


 剣を抜き、ひたちさんの反対側を警戒する。

 こういう時、飛び道具や盾があれば良かったんだがな。


「集まってきます! ご注意を!」

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