第48話 最初に目覚めた鍾乳洞、ここが目的の場所だ
彼女――ひたちさんのニーハイブーツはハイヒール。こんな所は歩きにくいと思ったけど、案外簡単そうに歩いていく。
特見れば、歩いた後には無数の穴。スパイクが付いているのだろう。踏まれて喜ぶ趣味が無くて良かった。
ただそれ以上に、慣れているのだろう。この迷宮というものに。
ただ黙々と歩く中、俺はたまに質問を投げかけていた。
「ひたちって珍しい名前ですね。どんな字を書くんですか?」
「いえ、そのまま平仮名でひたちでございます。父が漢字を読めなかったもので、平仮名の名前にしたそうです。ちなみに由来は母が務めていた会社名です。安直でございましょう?」
「いえ、とても良い名前だと思いますよ」
なるほど、ハーフか。だとしたらこの外見で日本人ってのも納得できる。
父親が外国人で、母親が日本人って所だろう。それにしても――、
「俺の方が年下だと思いますので、そんな丁寧に話さなくても良いですよ。もっと普通にお願いします」
「いいえ、これが私にとって普通なのです。母は厳しい方で、淑女の何たるかを常に教えられました。父がイギリスでもそれなりに身分の高い方だった事もあって、まるでメイドのような教育を受けました」
「それはまた――」
それは彼女にとって幸せだったのだろうか?
確かに教養は大切だ。だが娘をメイドのように育てるなど……。
「ちなみに稼ぎは母の方が圧倒的に上でしたので、家庭内の権力もまた母の方が上でした。
ですからこの教育は、純粋に趣味ですわ。わたくしも、とても気に入っています」
あ、結構生々しい話だった。
でもメイドさんか―……メイド服姿も見てみたい。きっと似合うだろうな。あの鞭さえなければ……。
こうしてまた沈黙し、歩く。
べつに会話が尽きて気まずい雰囲気が流れているわけではない。
全く逆。聞きたい事が多すぎるのだ。
だが本格的に始めてしまうと、絶対に足を止めなければならない。
多分だが、数日話しても話題は尽きないだろう。
だからこそ、こうして話題を選びながら本題へと入る構成を考える。
歩きながらだが、頭の中はフル回転していた。
ちなみに順番は、いつの間にか――というかほぼ最初から俺が先頭だ。
あの艶めかしい背中とプルンとしたお尻はすぐにお預けとなったのだ。
良い事なのか悪い事なのか……いやいや、俺はこれでも
ただそれだけに、あれは完全に目の毒だよ。
「俺は何も考えずに進んでいますけど、本当にこれで良いんですよね?」
「ええ、
「どんな原理なんだろうな。というか俺に様付けは良いよ」
「習慣ですので、ご容赦頂けたらと思います。もしどうしても気になるようでしたら、この鞭でわたくしめを――」
「いや、やっぱいいです」
取り敢えず、今のは聞かなかったリストに流しておこう。
「ただ原理自体は少し知っておきたいな。スキルのヒントにもなるし。そうだ、以前上に行こうとした時には結構迷ったんだよ」
「発動しているスキルの強さにもよると思いますが、聞いた話によると相当強く発動していたと聞いています。迷ったのでは無く、最短で行くために何かトラブルを避けていたと考えられます」
「なるほど……」
「そして迷わず進める点に関しての原理は、わたくしには分かりません。
「勝手に進んでいる様でも、実際には最初から決まった道を歩いているわけか」
そう言われても、まるで実感がわかない。
俺はただ、思うがままに進んでいるだけ。いわば勘任せだ。だがそれは、確かに真理を突いていたのだろう。
目の前ふいに現れた小さな穴。背景に溶け込むようで、注意していなければ気が付きもしなかっただろう。
だけどこの形は忘れない。それはあの時、鍾乳洞から出た場所、盆地の上にあった穴。
周りの景色は変わっても、この穴だけはあの時の形のまま、そこに空いていたのだ。
まるでセーフゾーンの様に。
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