第47話 禁欲生活中の俺にとって彼女の刺激は強すぎる

 ここまでで最大の情報源が消えてしまった。

 ショックの大きさは計り知れない。だけど、項垂うなだれたり力を抜いたりしている余裕はなかった。


 なぜなら、今まで黒い騎士がいた場所に一人の女性が立っていたからだ。

 決して小さくは無いが――いや特に胸が――って違う! 今まで騎士と会話していたのでかなり見上げていた。だから一瞬だけ見落としてしまっただけだ。

 とにかく、さっきまでとは違う人が立っていた。


 金色の、一見すると丸みのあるショートカット。だけど違う。ロングの髪を編んで丸めている。

 金髪もさっきの双子と違って、現実味のある稲穂のような色合いだ。


 背丈は150センチ台の後半だろうか。段差があるので少し分かりにくいが、奈々なな瑞樹みずき先輩よりも少し低く感じる。

 だけど胸部のサイズはさほど変わらない。巨大な白い2つのボールが激しく自己主張をしている。


 なぜそんなものが見えるのかというと、特徴的な服装のせいだ。

 全身真っ黒のボンテージ。ただ素材はゴムか革に見える。厚手の品だ。

 胸部分は下から先っちょまでがギリギリ隠れるほどのカップしかなく、ちょっと動いただけでこぼれて見えてしまいそう。しかもこれ見よがしに下乳から脇までが左右ともに開いている。なんで?

 下はハイレグで、パンツの様なものは見えない。手足には同じような素材の長い手袋、それにニーハイを兼ねた様なハイヒールのブーツ。


 ベルトにはポーチと言うには大きすぎるバッグ――というより、SMGサブマシンガンのマガジンケースの束の様なものが、まるで装甲のように左右取り付けられている。

 それに加えて肩や肘には数本のスパイクが見える。なんとも物騒だ。

 ついでにニーハイブーツと腰のベルトをガーターベルトの様なものが繋いでいるが、あれに何か意味があるのか?


 だがそれより、手に持っている物が凶悪だった。

 茨のような棘が無数についた鞭。巻かれたそれを、無造作に持っている。

 あれで叩かれたら、痛いじゃすまされないだろうよ。


 胸の時も思ったが、見える肌は白く、黒い凶悪なボンテージとの対比が実に煽情的だ。

 というか女王様? この人がひたちという人なのだろうか?

 だとしたら敵ではないはずなのだが……。

 見れば表情は穏やかで、優しそうだが意志の強そうな青い瞳が俺をじっと見つめていた。


「ああ、すみません。俺は成瀬敬一なるせけいいちです」


 慌てて自己紹介。考えてみれば、ジロジロガン見し過ぎだった。恥ずかしい!


「いえ、大丈夫でございます。そういった視線には慣れておりますので」


 思いっ切りばれてた! もっと恥ずかしい!

 自分でも分かるほど顔真っ赤。耳まで真っ赤だと自覚できる。


「わたしと随分と反応が違いませんか?」


「それはまあ、シチュエーションの違いだ。というかちょっと黙っていてくれ」


「いえ、ごゆっくりどうぞ」


 そう言うと、口元に手を当てて少し笑う。美人というよりかわいいタイプか?

 それに言葉もゆっくり丁寧で、とにかく服装とのギャップがすごい。

 というか、もろ外国人に見えるが勇者やセポナと違って流暢な日本語だ。


「ええと、ひたちさんで良いのかな? 貴方も召喚者なのですか?」


「ええ、その通りでございます。わたくしも召喚者の一人。南条ひたちと申します。これでも貴方と同じ日本人でございます」


 ――絶対外国人だと思っていた。もしくは……あれ? そういえば召喚者と現地人との間に子供って出来るのだろうか?


「それより、目的地まで急ぐのでございましょう? わたくしは平八へいはち様と違ってここでも動けますから、移動しながらお話を致しましょう」


 この人も平八へいはちって呼ぶんだ。可哀そうだから、俺だけはちゃんとダークネスさんと呼んであげよう。

 ん? なにダークネスだっけ?

 なんて考えも、彼女がくるりと背中を向けると全部吹き飛んだ。

 白い背中もろだし。肩甲骨が妙にエロい。迷宮禁欲生活が長かった青少年には刺激がきつすぎる。鼻血出そう……。


「わたしは動けませんので、おんぶお願いします」


「あ、ああ、そうだな」


 セポナを背負うとたぎった感情が和らいでいく。これがインプリンティングというやつか。膨らみを全く感じない背中から、逆に安心を感じていた。

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