第46話 もう消えるのかよ
理外……そう言われても『これだ!』という認識には至らない。
だけど言われてみれば、納得できる点も多い。
竜の肉を切れるようになったのは? 食べられるようになったのは?
慣れたからでも強くなったからでもない。『出来ない』という部分を外したからだ。
こうして出来るという現実だけが残る?
いや、まだ少し違う気がする。だけど大きく間違ってもいないのではないか?
そんな予感と共に恐怖も感じる。
『使い続ければ、やがて戻れなくなるだろう』
それが正しい事だけは、何となく本能で理解できていたからだ。
「今すぐ、このスキルを止める手段は無いんですか?」
「無いな。それに貴様はもう使いすぎた。一部はもうこの世界の存在ではない。普通の人間の目には分からずとも、我には分かる」
覗き穴の無いつるんとした鉄兜。そんなものを被っている相手だからこそ、その言葉は現実となって肩にのしかかる。
「だが悪い事だけでもあるまい。貴様は今、確かに目的の場所へ進んでいる。そう、これだけの枝道のある迷宮を、迷わず一直線にな」
「それも……俺のスキルなのですか?」
「そう言って差し支えはあるまい。クク……目的地から外れる道を選択肢から外す。実に強力なスキルよ。大事に使う事だな」
そんなことを言われても、使い続けたら消えるなんて言われたら慎重にもなる。
いますぐオフにしたいが、そうしたら一歩も進めない。そもそも完全にオフにするためのアイテムが無い。
それに、今までの話が真実なら、あの痴女神官はわざと俺にアイテムを渡さなかった事になる。
説明が無かったのもそのせいなのだろうか? だがこの話、鵜呑みにして良いものかどうか……。
「聞けば聞くほど、聞きたい事が増えてしまいますね。よろしければ全て聞きたいのですが」
「元よりそのつもりよ。我は貴様を勧誘に来たのだからな。じっくりと言葉を交わそうではないか」
勧誘? いや、それ以上に聞きたい事は山ほどあった。
なぜ俺が召喚された事を知っていたのかや、その後の事。今の目的地も知っているようだった。
そして
俺の事を知っているのなら、知っていてもおかしくはない。
だけど、それをここで聞くことは出来なかった。なぜなら――、
黒い騎士の耳元に、何やら黒い渦が現れる。なんだ?
『ザ、ザー……おい、
「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスだ。何度言えばわかる」
『面倒くさいんだよ。それより緊急事態だ。セーフゾーンの一つが潰された。連中だ』
「また大事を引き起こしてくれたものだ。分かった、すぐに向かう」
そう言うと――、
「すまぬな。今はゆっくりと話している余裕がなくなった」
「何かあったのですか……ええと、平八さん」
「ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスだ」
もうそれでいいや。
「それで――」
『転送まで30。下手に動くなよ』
その言葉と同時に、双子がブラッディ・オブ・ザ・ダークネスの馬に飛び乗って抱えられる。
「我は行く。非常事態でな」
「いや、説明不足過ぎます。俺も行きます。行かせてください!」
「ダメだな。貴様は目的の場所があるのだろう? その目で確かめ、自分で結論を出せ。だがお前一人で答えが出せるほど、この世界は簡単でも単純でもない。我らもまた、貴様と同じよ。真実を探す放浪者、それが我らだ」
「なら――」
「代わりは誰が来る」
『ひたちが行くことになった。本人の希望だ、何も言うな』
「だそうだ。再び出会うまで死ぬなよ。その時は、お前が導いた答えを――」
そこまで言うと、黒い鎧の騎士、そして双子は掻き消すように消えてしまった。
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